研究課題/領域番号 |
18J10406
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平山 裕人 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 証拠性表現 / エビデンシャリティ / 推量の助動詞 / 形式意味論 |
研究実績の概要 |
報告者は証拠性表現と推量表現の意味的差異を形式意味論の観点から理論化することを目標にしている。今年度は「両者の意味の差異を示すデータを収集し、その隊を説明する一般化を行うこと」と「その成果を国際学会で発表すること」を目標とした。以下、それぞれの進捗状況について報告する。 まず一つ目の目標に関して、報告者は今年度の前半で、日本語の証拠性表現に関する文献を読み進め、証拠性表現「ようだ」が使えないが、推量の助動詞「にちがいない」が使える例、そして、その逆が成り立つ例を収集した。そして、年度の後半で、証拠性表現研究の権威であるUniversity of British Columbiaへ客員研究員として赴いた。そして、年度の前半で収集した日本語のデータを英語に翻訳し、現地で英語母語話者にインタビューを行い、英語の証拠性表現apparently, seemが使えないが、推量の助動詞mustは使える例、そしてその逆が成り立つ例を収集していった。 報告者はそれらの例をもとに、(1)間接証拠性表現を使う際には、証拠を獲得した時間が、証拠性表現のを伴う命題が真になる最初の瞬間と同時である、もしくはそれより後続しなければならないという一般化と、(2)間接証拠性表現は、証拠となる命題が真になる状況が、証拠性表現を伴う命題が真になる状況の一部分である場合に使用できるという一般化を立てた。 二つ目の目標に関して、報告者は今年度、国際学会に3回採択されている。それらの学会の中で、前年度までの研究成果と(1)の般化について発表している。また、(2)の般化については、現在別の国際学会に発表申し込みを提出しており、現在結果待ちである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者の本年度の研究目標は(1)「証拠性表現と推量表現とで容認度に差が出るデータを収集し、その差異を説明する一般化を提案すること」そして(2)「その成果を海外学会等で発表すること」であった。(1)の目標に関して、報告者は年度の前半で証拠性表現と推量表現の差異を示す日本語のデータをいくつか発見し、年度の後半でUniversity of British ColumbiaのLisa Matthewson氏のもとに客員研究員として赴き、現地の英語母語話者とのインタビューを通じて、その日本語のデータが英語にも適応できるかどうかを確認した。インタビューを通じて得たデータをAmazon Mechanical Turk (AMT) で精査する段階までには至らなかったが、データ収集自体は期待通りの成果となったと言える。また、得られたデータに対して、(1)間接証拠性表現を使う際には、証拠を獲得した時間が、証拠性表現の作用域にある命題が真になる最初の瞬間と同時である、もしくはそれより後続しなければならないという一般化と、(2)間接証拠性表現は、証拠となる命題が真になる状況が、証拠性表現の作用域にある命題が真になる状況の一部分である場合に使用できるという一般化を行っており、口述する学会でその成果は発表されている。 (2)の学会発表に関して、報告者は今年度3回国際学会で発表の採択を受けており、また今年度の研究内容の総括とも言えるべき内容で他の国際学会に発表申し込みをしている(現在査読結果待ち)。すなわち、(2)の目標も期待通り達成されていると言える。以上より、報告者の研究の進捗状況は期待通り進展しているものであると言える。
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今後の研究の推進方策 |
「間接証拠性表現を使う際には、証拠を獲得した時間が、証拠性表現のを伴う命題が真になる最初の瞬間と同時である、もしくはそれより後続しなければならない」という一般化については、現在のところ日本語の「ようだ」と英語のapparently, seemにしか応用できておらず、証拠性表現一般の意味的記述を目指す本研究の目標としてはやや不十分であると考えられる。よって、今後の方針としては(1)の一般化が間接証拠以外のタイプの証拠性表現、すなわち直接・伝聞といった証拠性表現に応用できるのかを検証していく。他のタイプの証拠性表現への応用に関しては、Garrett (2001)やKalsang (2014)などを通してチベット語の直接証拠性表現のデータを収集・日本語の作例によって伝聞証拠性表現「そうだ」のデータを収集するといった形で応用可能性を調査する。 また、Davis and Hara (2014)は、「ようだ」が使われるには、証拠性表現を伴う命題が、証拠となる命題の原因でなければならないという一般化を提唱している。報告者はそれを発展させて、間接証拠性表現が使われるには、Davis and Haraの因果関係制約が成り立つ、もしくは「間接証拠性表現は、証拠となる命題が真になる状況が、証拠性表現を伴う命題が真になる状況の一部分である」というどちらかの条件が成り立たねばならないと提案した。この提案は先行研究よりも多くのデータを説明できるが、この二つの条件の間には意味的な関係性が見られず、そのような条件二つを「または」でつなぐことは説明力の観点から好ましくない。よって今後の方針として、因果関係と状況意味論の文献を読み進め、これらの条件二つを包括するような新たな条件を提案していく。
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