研究課題/領域番号 |
18J10457
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西岡 駿太 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 半導体光触媒 / 酸素欠陥 / 水分解 / 結晶多形 |
研究実績の概要 |
本研究では、光触媒における酸素欠陥と光触媒活性の関連性を明らかにすることを目的としている。我々はこれまでに、酸化物半導体光触媒を用いて、酸素欠陥形成と同時に生成される電子に注目し、電子濃度と光触媒活性の定量的な関係を調べてきた。本年度は、電子濃度変化の影響として、半導体のフェルミ準位の変化及び、固-液界面のバンド構造変化に注目し、光触媒活性変化の定量的な解釈を行った。実際に、電子濃度以外の物理化学的パラメータにはほとんど差が観測されないチタン酸ストロンチウムを、試料作製時の酸素分圧によって電子濃度を制御する手法により合成し、フェルミ準位やバンド構造の電気化学的パラメータのみを用いて光触媒活性変化を説明することに成功した。 さらに、酸素欠陥形成と光触媒活性の関係性の解釈を、可視光応答性材料にも適用するため、タンタルと窒素を共ドープした酸化チタンを用いて検討した。この材料では、アナタース・ブルッカイト・ルチルの3種の結晶構造を制御することで、結晶構造の違いによる欠陥形成変化に注目した。結晶構造の違いにより、タンタル原子の酸化チタン結晶格子内への取り込みやすさが変化し、それにより欠陥形成のしやすさが異なることを明らかにし、タンタルの共ドープによる光触媒活性の向上に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は本年度、酸素欠陥濃度を正確に制御したチタン酸ストロンチウムを用いることで、酸素欠陥形成に伴って光触媒活性が向上することを明らかにした。光触媒分野ではこれまで、欠陥形成が光触媒活性低下の要因だと考えられていたが、酸素欠陥濃度(電子濃度)を正確に制御することで、光触媒活性の向上を合理的に説明できることを見出した。半導体中の酸素欠陥濃度を定量的に制御して光触媒活性変化と関連付けた研究は本系がはじめての例で、格子欠陥制御が重要となる半導体光触媒の研究では重要な第一歩と評価できる。 また、可視光応答性材料であるタンタル/窒素共ドープ型酸化チタンに関し、アナタース・ブルッカイト・ルチルの3種の結晶構造制御にも初めて成功した。結晶構造の違いにより、タンタル原子の酸化チタン結晶格子内への取り込みやすさが変化し、それにより欠陥形成のしやすさが異なることを明らかにした。いずれの結晶構造においてもタンタルの共ドープにより酸素欠陥形成を制御でき、これにより光触媒活性を向上させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究で、光触媒における酸素欠陥と光触媒活性の関連性は、光触媒のバルク特性に注目して調査しており、光触媒表面に存在する欠陥が光触媒反応に及ぼす影響に関しては未検討である。表面欠陥の影響を調べるには、光触媒表面での光励起キャリア挙動を追跡する必要がある。その手法として、欠陥濃度を制御した光触媒表面に金属錯体色素を吸着し、その発光寿命測定を行うことで、光触媒表面に存在する欠陥が、光励起キャリアを捕捉する効果を調べる。これまでに、表面欠陥の濃度と、表面における光励起キャリア捕捉の効果を定量的に評価した報告はない。申請者がこれまでに研究してきた、酸素欠陥濃度を精密制御したチタン酸ストロンチウムを用いることで、これまで未検討であった、表面欠陥による光励起キャリア捕捉効果を、定量的に明らかにする。 また、酸化チタンの結晶構造制御により明らかにした知見を総合することで、タンタル・窒素共ドープ酸化チタンのさらなる高活性化を狙う。2段階の光励起を利用したZスキーム型水分解システムにおいて、タンタル・窒素共ドープ酸化チタンを酸素生成部位として利用し、高活性な水素生成光触媒と組み合わせることで、可視光照射下での水分解効率の向上を目指す。
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