研究課題
本研究では、室内実験にて環境DNA法実験系の確立と環境DNA検出量やその分解過程などの基礎情報の蓄積を行い、これらの成果をもとに、実際の航海にて環境DNA法がニホンウナギ産卵地点探索技術として有用であるか否かを検討した。本年度は、主に以下3つの室内実験を実施した。まず、1)ウナギ属魚類19種亜種の環境DNAを識別して検出できるユニバーサルプライマーMiEelを開発した。MiEelプライマーと次世代シーケンサーを用いて、異種ウナギの飼育水、人工池水、および河川水を分析したところ、ウナギ属魚類の環境DNAを種ごとに正しく検出できた。本手法は、水を取るだけなので、資源の減少が懸念されているウナギ属魚類の非侵襲的調査手法として有用である。次に、2)加速度ピンガーを装着した3尾のニホンウナギを、海水4000Lを入れた屋外水槽に入れて、ウナギの活動度と環境DNA検出量の関係を調べた結果、わずかな相関しかみられなかった。環境DNAは、水中に放出されたあと、生物学的・物理学的要因に影響をうけながら、輸送・分解されるため、環境DNA検出量と生物の活動には複合的な要因が関わっていると考えられた。さらに、3)塩分濃度が環境DNAの分解速度に及ぼす影響を検討したところ、海水、淡水、汽水の順に環境DNAの分解が早いことが分かった。つまり、海水中の環境DNAは、放出されてからすぐのものであり、淡水や汽水にくらべて、採水地点のより近くに生物個体が存在している可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、1)次世代シーケンサー用ウナギ属魚類環境DNAユニバーサルプライマーMiEelの開発に成功した。MiEelプライマーを使った環境DNA法は、今後、ウナギ属魚類の生態調査や資源管理に応用されるものと期待される。またこの成果は、これまで検出不可能であった種の検出を改良した事例となり、他魚種への環境DNA法の適用を促進するものと考えられた。さらに、2)ウナギの活動度と環境DNA検出量の関係、3)塩分濃度が環境DNAの分解速度に及ぼす影響という2つの基礎知見を明らかにした。これらの知見は、野外調査で検出される環境DNA結果を解釈するのに役立つものである。本研究と関連して、2015年のニホンウナギ産卵場調査航海における環境DNA研究と、ウナギの各発育段階と産卵行動に着目した環境DNA基礎研究について追加実験を行い、これらの成果を2報の原著論文としてまとめて国際学術誌に発表した。現在は、ニホンウナギ核環境DNA用プライマーの新規開発と2017年の産卵場調査航海で得られた環境DNAサンプルの解析を進めており、研究は概ね順調に進展している。
これまでに実施した環境DNA室内実験の結果から、外洋でニホンウナギの産卵イベントが起きた場合、一時的に高濃度の環境DNAが検出されるものと仮説をたてた。この仮説をもとに、2017年度の調査航海にて親ウナギの産卵行動に由来すると思われる高濃度の環境DNAを検出できた。今後は、高濃度の環境DNA検出が産卵行動由来である、ということを核環境DNAの解析から検証する。体細胞は、数百から数千個のミトコンドリアDNAを持つのに対し、精子がもつその数は数個から数十個と少ない。よって、精子がある時、水中のミトコンドリア環境DNA量と核環境DNA量の比が変化すると予想される。本研究では、これをニホンウナギに適用して産卵イベントの有無を明らかにする。核環境DNA用プライマーを開発したのち、産卵行動の前後における水槽水、および調査航海で採水した海水中のミトコンドリア環境DNA量と核環境DNA量を定量する予定である。また、環境DNA検出結果の信頼性向上を目的に、定量PCR産物のシーケンス法の確立も計画している。
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