当該年度は,昨年度から継続して行っていた有向グラフ上のcoarseリッチ曲率に関する研究で3つの研究成果を挙げ,成果を論文にまとめ公表した.加えて,新たに「至る所でcoarseリッチ曲率が正の値を持つグラフの構成」について研究を行い,成果を挙げた. 有向グラフ上に定義されるグラフ距離は非対称であることから,coarseリッチ曲率の定義を有効グラフ上に拡張することは難しいとされていたが,測度距離空間上の幾何学を用いることで,有向グラフ上にcoarseリッチ曲率を定義することに成功した.更に,各辺上のcoarseリッチ曲率が0の値を持つ有向グラフの条件や直積グラフ上のリッチ曲率を明らかにした.また,グラフの一般化である単体的複体やセル複体に注目することでより一般的な設定の下で理論を展開し,「coarseリッチ曲率を用いたグラフラプラシアンの固有値評価」や「セル複体上に定義されるFormanリッチ曲率との関係性」に関して研究を行い,それぞれで研究成果を挙げた. 一方で,coarseリッチ曲率が正の値を持つグラフに対してボンネ・マイヤースの定理やビショップ・グロモフの体積比較定理などの大域的性質が成り立つことから,coarseリッチ曲率が正の値を持つグラフに注目した.Coarseリッチ曲率が正の値を持つグラフは完全グラフ以外あまり知られてない.そこで,2つの完全グラフを幾つかの辺で結び,m-gluingグラフと呼ばれる新たなグラフを構成し,そのm-gluingグラフのcoarseリッチ曲率が正の値を持つための条件に関する定理を示した.本研究成果は,論文にまとめたが,今年度,就職が決まり,翌年度の特別研究員奨励費を辞退することとなったため,2019年度にまとめた論文を国際雑誌に投稿し,継続して研究を行っていく.
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