研究課題/領域番号 |
18J10539
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大渕 久志 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | イスラーム / 哲学 / 神学 / 倫理学 / 論理学 / オカルト / 政治 |
研究実績の概要 |
本研究はイスラーム世界における「神学」およびそれを担う神学者たちと、「政治」を執り行うカリフならびに諸地方の権力者たちとのつながりを認めつつ、政治的営みとしての神学の思想史を記述することを大きな目的として、13世紀初頭にモンゴル軍が西アジアにおける既存のイスラーム世界を破壊(し、そして再建)するまでイラン以東を支配したホラズムシャー朝とその庇護下で活躍した神学者ファフルッディーン・ラーズィー(1210年没)とその弟子たちの思想史的研究である。 平成30年度には、ラーズィーの神学についての論文“Fakhr al-Din al-Razi and Occult Science as Philosophy: An Aspect of the Philosophical Theology of Islam at the Beginning of the Thirteenth Century,” AJAMES, 34/1 (2018), 1-33を発表できた。 またその弟子、ザイヌッディーン・カッシー(1228年以前没)の道徳哲学について準備的な口頭発表“Logic and the Conventionalist Ethics of Zayn al-Din al-Kassi, the Disciple of Fakhr al-Din al-Razi”を行った。なお彼の哲学書の序文については、2018年11月末に投稿し2019年夏に刊行予定の論文(AJAMESに掲載)にて、現存する二写本をもとにした初の批判的校訂を発表できる。 また、ラーズィーの弟子シャムスッディーン・フワイイー(1248年没)が、前者の名高いクルアーン注釈書を補完したと文献学的に主張する論文を某学術雑誌に投稿し、査読結果を待っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、一次文献の写本資料の収集に時間と資金を費やす予定であったが、これを実行すると同時に論文や口頭発表の成果を出すことができたため、計画以上の進展を産むことができたと言える。とくに論文“Fakhr al-Din al-Razi and Occult Science as Philosophy: An Aspect of the Philosophical Theology of Islam at the Beginning of the Thirteenth Century,” AJAMES, 34/1 (2018), 1-33は日本中東学会の奨励賞(2年にひとつ選出)を受賞することとなったため、研究の質的にも計画以上と言えるだろう。 同論文のほかに、ファフルッディーン・ラーズィーの神学書の一部翻訳を、所属研究室の紀要雑誌創刊号に掲載できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成30年度にイラン、トルコ、エジプトで収集した一次文献(刊本および写本資料)を用いて、ファフルッディーン・ラーズィーの後継者たち(ザイヌッディーン・カッシー、クトゥブッディーン・ミスリー、シャムスッディーン・ホスラウシャーヒーなど)の思想を読解し、思想史として記述することに専念する。とくに、本研究課題として設定したとおり、イスラームの「神学」と「政治」とのつながりに目を向けつつ、彼らが活動した地域・時代の歴史的状況をふまえながら、研究を進める。
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