強相関電子系における長年の未解決問題である非従来型超伝導と磁性の関係を明らかにする目的で、d波超伝導体CeCoIn5と反強磁性体のCeRhIn5やCeIn3からなる重い電子系人工超格子を作製し、系統的な磁性層層数依存性・圧力依存性を調べた。これらの重い電子系人工超格子では、超伝導状態と反強磁性状態が空間的に分離した層に共存し、界面を介した相互結合によって元々のバルク物質とは大きく異なった超伝導特性や磁気特性実現する。準二次元的な反強磁性秩序を持つCeRhIn5を用いたCeCoIn5/CeRhIn5超格子では、圧力によりCeRhIn5層の反強磁性秩序を抑制すると、超伝導体のCeCoIn5層に注入された反強磁性量ゆらぎが、超伝導の電子対形成相互作用を強化することが明らからになった。一方で、三次元的な反強磁性秩序を持つCeIn3を用いたCeCoIn5/CeIn3超格子では、反強磁性ゆらぎは注入されているものの超伝導の電子対形成相互作用はほとんど影響を受けないことが明らかになった。これらの結果は、二次元的な反強磁性ゆらぎがCeCoIn5の超伝導の電子対形成に本質的に重要であることを対照的な実験によって示したものである。 一方、走査トンネル顕微鏡分光測定による重い電子系原子層薄膜の直接観測においては、昨年のCeRhIn5薄膜における電子状態の直接観測以降、測定装置の大きなトラブルに見舞われた。現在は解決しており、CeCoIn5原子層薄膜を用いたヘテロ構造の作製にも成功している。研究遂行の見通しがついていることから今後の進展に期待したい。
|