グラフ上の量子ウォークでは現在、無向グラフ上で考察するのが慣例となっている。私は、これらの研究を有向グラフに拡張し、「代数的グラフ理論」の観点から「量子ウォーク」の考察を与えることを目的として研究を行った。先行研究で導入された twisted Szegedy walk を利用して、「有向グラフから定まる量子ウォーク」の研究を行った。まずは、時間発展行列の基本的な性質を調べる必要があったため、次のふたつの小課題を解決することを目指した: ①スペクトル写像定理がこのモデルでも成立することの確認 ②時間発展行列の2乗の正台の構造定理の発見 ①について、時間発展行列の固有値解析は、いわゆるdiscriminant と呼ばれる別の行列の固有値解析に帰着される。本研究で取り扱う twisted Szegedy walk のdiscriminant は、実は GuoとMohar が定義したエルミート隣接行列をある意味で正規化したものと完全に一致する。そこで、まずは時間発展行列の固有値解析の基本的な道具であるスペクトル写像定理がこのモデルでも成立することを確認した。 ②では、時間発展行列の正台の構造を調べた。結果的に、「Grover walkの時間発展行列の正台と負台」と「1-form 関数θによる摂動を表す行列」が本質的に重要であることを突き止めた。「Grover walk の時間発展行列の正台」はよく研究されている。そこで、私は「Grover walk の時間発展行列の負台」と「θによる摂動を表す行列」を明らかにし、新たに定義した量子ウォークの時間発展行列の2乗の正台を明示的に表すことに成功した(実は同時に、2乗の負台を明らかにすることにも成功している)。
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