2019年度は、7月から8月に約1か月かけて欧州5か国に滞在し、精神障害者の欧州規模や世界規模のネットワークで活発に活動してきた活動家に対するインタビュー、及び資料収集を実施した。今年度の調査は、前年度の調査で得られた人脈や情報を活かして、前年度とは異なる活動家や施設を対象にした。前年度に明らかにしたことを踏まえて調査を実施したことにより、より的を絞った調査や新たな視点での調査が可能となり、貴重な証言や文書資料を集めることができた。 2019年度の調査で明らかになったことは以下の2点である。1つは、東欧地域における精神障害者の欧州のネットワークの活動について、欧州のネットワークは、イギリスのハムレットトラストと協力しつつ、ハムレットトラストとは異なる関心をもって活動してきたことである。もう1つは、欧州には精神障害者だけの国内組織がない国が少なからずあり、そのような国の精神障害者にとって欧州規模や世界規模のネットワークは完全に精神障害者によって運営されているという点で重要であったことである。 これらの成果は、2019年度中に学会などで発表したほか、これまでの研究の成果と合わせて2020年3月に博士学位請求論文「精神障害者のグローバルな草の根運動――連帯の中の多様性」としてまとめた。この過程では、昨年度のインタビューや資料調査で得られた情報についても整理することができた。さらに、これらの成果は2020年度以降、査読論文などとして発表を予定しているほか、今後の研究の基盤ともなる。
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