研究課題/領域番号 |
18J10751
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上野 彩 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 未確定希少難病患者 / 病いの語り / 診断名 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は診断名の確定が不可能な疾患群の患者さんたちにインタビュー調査を行い、病いとどのように共生しているのか明らかにすることである。 本年度は未確定希少難病患者へのインタビュー調査を4名行い、暫定的な分析結果を国際社会学会で口頭報告し、学術誌への投稿を果たした。具体的な分析内容としては、診断名を付与されない患者は、他の慢性疾患患者と違い、予後はおろか、疾患名に付随する社会的イメージさえ獲得できない状況であり、そのような過酷な状況の中で患者が半強制的に近代医療から自由になることが挙げられる。つまり、未確定希少難病患者は近代医療から一定の距離を保ちながら、各々独自に自分の生を築いている。表面的にみると近代医療から自立し、自由に病いと共生しているようにみえるが、その背景には近代医療ができることがほとんどなく、患者が望むと望まざるとに関わらず、未確定希少難病患者は自立しなければならない、という事情がある。 以上のデータと医療社会学の先行研究を照らし合わせて、未確定希少難病患者は近代医療になにも期待しない、「自立期」があることが明らかになった。その他にも、難病対策員会と難病法施行に関する審議録の公開資料をすべて収集・分析し、「病名がない」状態がいかに政策のなかで見落とされてきたか明らかにし、『保健医療社会学論集』に投稿した。この審議録の分析結果と患者さんたちのインタビュー調査結果をあわせたものを来年度、本の一部として出版する予定である。 本研究は学術的、社会的に見落とされている「病名のつけられない」患者の経験に焦点を当てたものであり、今後も調査を継続していくことによって社会学だけでなく、医療・福祉など近接領域にも貢献可能な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一番の課題は診断名のない患者さんにどのように調査を依頼するかということであった。未確定希少難病患者の経験はある程度明らかにできつつあるとはいえ、本年度インタビューできた患者さんは十分な人数とはいえないが、今後の調査の方向性を指導教授と話し合い、次年度以降解決可能である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では調査対象者の確保のため、未確定希少難病患者とは対象にある、「症状はないが診断名が付与されてしまう」慢性疾患患者の経験についても明らかにしていく。そうすることによって、診断名の有無によって患者の経験がどのように変化するのか比較分析が可能になる。
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