研究課題/領域番号 |
18J10817
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福田 健二 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | ホイスラー合金 / エピタキシャル薄膜 / フェリ磁性体 / 異方性磁気抵抗効果 / ハーフメタル |
研究実績の概要 |
スピン波デバイスの実現のためには,スピン波の長距離・高速伝搬を可能にする低磁気緩和材料の開発が必要となる.本研究では,その候補として,ホイスラー合金に着目した.ホイスラー合金は低い磁気緩和定数を持つとされ,フェルミ準位で完全にスピンが偏極した電子構造を持つため,スピン波デバイスの導波路材料として有望である.特に,Mn基のホイスラー合金の一部は,低飽和磁化を有するフェリ磁性体であり,外部への漏れ磁場が少ないためにデバイスの集積化が可能という応用上のメリットが挙げられる.Mn基ホイスラー合金のなかでも,Mn2VAlは,Mnサイトの一部をCoに置換することで,置換量に比例して全体の磁化を低減することが可能であり,MnとCoの割合が等しくなる組成で磁化が完全に補償されることが理論研究で報告されている. 本研究では,超高真空マグネトロンスパッタリング法によりMnCoVAl薄膜の作製を行なった.結晶構造解析の結果から,作製した薄膜はエピタキシャルに成長し,高い規則構造を有することが確認された.また,磁化測定の結果から,MnとCoの割合を変化させた各組成において,作製した薄膜の磁化は理論値に近い値を取ることが確認された.続いて,作製した薄膜のハーフメタル性を評価するために,異方性磁気抵抗効果を調査した.近年,理論研究により,異方性磁気抵抗比が負になることはハーフメタルの必要条件であることが報告されている.従って,作製した試料のハーフメタル性を評価するには異方性磁気抵抗効果の測定が有用である.実験から得られた異方性磁気抵抗比は,大きな電流方位依存性を見せた.このような実験結果はMn基ホイスラー合金では初めてのものであり,MnCoVAl合金が他の材料と比べてユニークな磁気輸送特性を有していることがわかった.本研究で得られた結果は,異方性磁気抵抗効果の理論研究の更なる進展を助けるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,スピン波デバイスに向けた反強磁性材料薄膜の開発を目的としている.フェリ磁性体であるMn基ホイスラー合金の一部をCoで置換することにより,置換量に応じて線型的に磁化を制御することが可能であり,MnとCoの割合が等しくなる組成で,磁化がゼロの材料を作製することに成功した.作製した薄膜はどの組成においても高い規則構造を有し,基板上にエピタキシャルに成長していることが確認された.以上のことから,高品位な薄膜を作製する段階までは計画通りに進めることができた. 一方で,作製した薄膜のハーフメタル性を評価するために磁気異方性抵抗効果を調べたところ,予想と異なり,大きな電流方位依存性が現れる結果となった.このような結果は実験報告例が少なく,本研究で扱っているMn基ホイスラー合金材料がユニークな磁気輸送特性を有していることがわかった.磁気輸送特性をより詳細に調査することに注力したため,磁気緩和特性の解明まで研究を進展することはできなかった. 以上のことから,本研究の進捗状況は概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
近年,理論と実験の両方で,異方性磁気抵抗効果の測定により物質のハーフメタル性を検証することが可能であることが報告されている.また,異常ホール効果を測定することにより,物質のフェルミ準位近傍における電子構造の解明に迫ることができる.本研究では,作製した薄膜の異方性磁気抵抗効果と異常ホール効果を系統的に調査することにより,ハーフメタル性の有無を調査することを目指す. また,MnCoVAl合金の反強磁性的な磁気秩序に関しては,磁気円二色性測定を行うことにより確認する. 高品位な薄膜を作製した後,実際にスピン波の伝搬を観測し,群速度と伝搬長を測定する.スピン波伝搬の観測には,ブリルアン光散乱法を用いる.測定した伝搬長の妥当性を評価し,期待される結果が得られた場合にはスピン波を用いた論理演算の実証へと展開する予定である.
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