研究課題/領域番号 |
18J10834
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
許(XU) 駿 (JUN) 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 細菌運動 / レプトスピラ / 宿主細胞 / 滑走運動 / 感染 / 保菌 |
研究実績の概要 |
本研究は、病原性細菌の運動性に注目し、感染の成立において病原体の運動性がどのように関わるか、一方で宿主免疫がどのように対抗するかを解明することを目的とする。菌体外にべん毛をもつサルモネラや、菌体内にべん毛を持つレプトスピラをモデル生物として利用する。 初年度は、病原細菌レプトスピラが生体条件での感染ダイナミクスの定量的解析を行う予定であった。レプトスピラ症の病原体であるレプトスピラの感染後の症状は宿主の種による異なり、一部の宿主ではレプトスピラが肝臓、腎臓に持続し、保菌動物となる。一部の宿主は炎症など症状が現れる。さらに250以上の血清型に分類されるレプトスピラは、同じ宿主に対して血清型により、感染した後の症状も異なる。このようなレプトスピラ属細菌ののメカニズムは不明である。我々は感染確立につながる運動機能の理解するために、生細胞シート上の細菌運動アッセイを行った。小泉信夫博士(国立感染症研究所)の協力により、動物細胞としてラット腎臓(NRK)細胞およびイヌ腎臓(MDCK)細胞と、異なる宿主選好性を示すレプトスピラ属細菌三つのGFP発現株(L. interrogans serovar Manilae, serovar Icterohaemorrhagiae, and L. biflexa serovar Patoc I)を用いて、異なる血清型の細菌細胞と宿主細胞の接着そしてそのあとの細胞上における滑走運動を記録し、解析を行った。実験の結果から、宿主細胞対してに高い付着性、速い滑走速度を持つ血清型が感染力が比較的に強いことが分った(Fig.1)。これ結果はレプトスピラ細菌が動物体内で保菌あるいは感染を確立するメカニズム解明に繋がる重要な基盤となり、2019年1月に米国ニューオーリンズに開催された国際学会「Bacterial Locomotion & Signal Transduction 2019」でポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細菌の運動性は必須病原因子の1つであるため、病原体の運動阻害は有効な感染症対策である。我々はマンノース結合レクチンが病原性細菌の運動阻害を引き起こすという自身の過去の成果に基づき、菌体外にべん毛を持つ種(大腸菌、サルモネラなど)と菌体内にべん毛を持つ種(レプトスピラなど)を材料に、病原体の感染確立における運動性の具体的役割、宿主免疫系が病原体の運動性に及ぼす影響とその機構を明らかにすることを本課題の目的とした。初年度にラット腎臓細胞などの単層シート作製法を樹立し、GFP発現レプトスピラ株と組み合わせることにより、動物細胞上でのレプトスピラの接着・運動解析システムを構築した。得られた成果は、レプトスピラの宿主特異性(動物種によって異なる病原性を示す性質)が、運動と接着の2つの因子で大まかに説明できるという非常に興味深いものであった。我々が構築した接着・運動解析システムはサルモネラや腸管出血性大腸菌の研究にも活用され、病原因子としての運動性の理解の深化に役に立った。当該年度の研究への取り組みと成果は高く評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果に踏まえて、レプトスピラ症病原体の宿主選考性のメカニズムが運動性の視点から議論することができると結論付けられる。 次年度は樹立した実験系をほかの血清型、宿主細胞、病原細菌に応用すること、そして宿主細胞側の免疫反応などを検討する。病原体と宿主、両側の視点から保菌と感染の成立のメカニズムを議論することを目指す。
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