本研究では,乳癌の生物学的特徴を理解するために,タンパク質間相互作用 (PPI; protein-protein interaction) に着目し,これまでin vitroでの解析が主であったPPIをヒト乳癌組織で検証することで、PPIを用いた新規検査法の確立を目指す。 昨年度までの検討から,CEACAM6およびHER2の細胞膜でのPPIによりHER2のインターナリゼーションが抑制され,トラスツズマブ奏功性に関与することを明らかにした.この事から,PPIの有無を評価することで,乳癌患者のトラスツズマブの奏功性を予測できる可能性が示唆された.当該年度は①PPIとT-DM1の解析に加えて,②CEACAM6およびCEACAM8のPPIが乳癌細胞に及ぼす影響を検討した. ①乳癌培養細胞を用いてCEACAM6の発現をノックダウンし,T-DM1感受性に及ぼす影響を検討した.その結果, CEACAM6ノックダウンによるT-DM1感受性の増加が認められ,細胞内にエムタンシンを送達することで抗腫瘍効果を発揮するT-DM1の効果は,PPI陽性細胞ではPPI陰性細胞と比較して低下する可能性が示唆された. ②ヒト乳癌組織にてCEACAM6およびCEACAM8の免疫組織化学を行い,臨床病理学的因子との関係の検討および両タンパク安定発現細胞株の樹立とその機能解析を行った.さらに,血管内皮細胞に対する浸潤能との関係に着目し,乳癌の遠隔転移症例を用いて免疫組織化学を行った.CEACAM6単独陽性細胞では増殖能および浸潤能が高く,骨転移との関連も示唆された.一方でCEACAM6はCEACAM8と相互作用をすることで乳癌細胞の増殖を阻害し,癌の悪性度を低下させることを示唆する結果も得られ,これらCEACAMタンパク間の相互作用をその生物学的意義も含めて初めて示した.
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