研究課題/領域番号 |
18J10935
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
池田 真由美 徳島大学, 大学院薬科学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 活性イオウ分子種 / 血清アルブミン |
研究実績の概要 |
いわゆる身体の「錆び」のもととなる酸化ストレスは、慢性腎不全や糖尿病、がんなど種々の病態の悪性化因子であることが知られている。この「錆び」を防ぐべく、生体は様々な抗酸化物質を利用している。最近、活性イオウ分子種と呼ばれる高反応性の硫黄化合物が細胞内で検出され、抗酸化機構の一部を担うことが報告された。しかしながら、活性イオウの全身における分布、特に生体液への分布についてはこれまで分かっていなかった。このことが明らかになれば、活性イオウのレベルを検出することで、酸化ストレスの程度を評価したり、治療薬としての活性イオウの可能性を見出したりすることが期待できる。 我々は、独自の活性イオウ検出方法を開発し、血清や唾液、涙液、精液などの生体液中に活性イオウが存在することを発見した。血清中活性イオウ濃度は、慢性腎不全や糖尿病性腎症、慢性肝炎、集中治療室入院患者において健常人と比較して減少していた。重要なことに、従来の酸化ストレス測定方法では検出できなかった初期レベルの酸化ストレスにおいても、活性イオウは減少していた。したがって、血清中活性イオウの測定は、初期の酸化ストレスを検出できる新たな指標になり得ることが示された。我々が開発した方法は、簡便かつハイスループットであることから、臨床における応用も期待できる。 次に、活性イオウの補充療法について評価した。これまで開発されている活性イオウのドナーは、いずれも低分子化合物であり、投与後は速やかに血中から消失してしまうことが懸念されている。我々は、ヒト血清の活性イオウのうち約85%がヒト血清アルブミン(HSA)に由来していることを明らかにし、HSAが従来有する活性イオウ運搬能を応用し、HSAに更なる活性イオウを送達させることを考案した。すでに活性イオウが更に結合したHSAの作成に成功しており、現在酸化ストレス疾患における治療効果を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題について、当該年度は①酸化ストレス疾患罹患時の活性イオウ変動、②酸化ストレス関連疾患モデルにおける活性イオウの変動、③活性イオウ付加HSAの作製と抗酸化能の3つの評価を計画していた。 ①について、研究計画通り、糖尿病性腎症や慢性腎不全などの酸化ストレス関連疾患時における血清中活性イオウ濃度の変化について、活性イオウの種類の違い(酸化型・還元型)に応じて評価することが出来た。血清中の活性イオウの約85%がヒト血清アルブミン(HSA)に由来することを明らかにし、HSAを酸化させることで、血清の活性イオウ変化を再現することに成功した。また、計画していなかったが、血清中活性イオウの日内変動についても評価することができた。 ②について、当初予定していた肝・腎疾患モデルマウスの評価はやや遅れている。一方、計画外であった別の酸化ストレスモデルである老化や自己免疫疾患マウスについて、評価をすることができた。 ③について、計画してた2種類の活性イオウ付加HSAの作製に成功した。両者の抗酸化力について、細胞や人工ラジカルを使用した検討により評価できた。 また、当初予期していなかった発見をすることができた。HSAから活性イオウを一部消去する化合物の発見に成功し、HSAに活性イオウが存在する意義について、抗酸化能以外の機能を発見することができた。更に、本化合物を用いることで、活性イオウを介したHSAの抗酸化メカニズムの詳細を明らかにすることができた。 血清以外にも様々な生体液における活性イオウについて測定を行い、各生体液同士の相関関係について評価することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、計画通り活性イオウ付加HSAの酸化ストレス関連疾患モデル疾患における治療効果について評価を行う。同時に、疾患モデルマウスと健常マウスの血清中の内因的な活性イオウの変化についても評価する。 まず急性腎障害モデルマウスを作製し、活性イオウ付加アルブミンを投与してその治療効果について、評価する。モデルの作製方法は、シスプラチン誘発急性腎障害および腎虚血再灌流を採用する。治療の評価項目として、BUNなどの腎機能評価や血清中および腎組織中の活性イオウ濃度測定などを予定している。投与量およびスケジュールは、治療効果を評価しながら決定する。 また、 活性イオウ付加アルブミンをFITCで蛍光標識し、その体内動態について、継時的に評価を行う。
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