抗酸化剤としての応用を目的に、ヒト血清アルブミン(HSA)を基盤としたポリスルフィドのドナーを作製した。多硫化ナトリウム(Na2Sn)とHSAを反応させることで、還元型ポリスルフィドが結合したHSAであるSn-HSAを作製した。Sn-HSAは、メラノーマ細胞においてメラニン産生をポリスルフィド依存的に抑制した。そのメカニズムとして、高いROSおよびNOの消去活性を有していたこと、およびチロシナーゼ活性を抑制したことが示唆された。近位尿細管上皮細胞を用いたin vitro試験にて、Sn-HSAは細胞内へポリスルフィドを供給可能なことが示された。またSn-HSAは、ミオグロビン添加により惹起される酸化ストレスをHSAやNa2Snと比較して高効率に抑制した。 酸化型ポリスルフィドの供与体として、N-アセチル-L-システイン(NAC)のポリスルフィド型のもの(NACSn)が結合したHSAであるpoly-NACSn-HSAを作製した。HSAを化学修飾して導入した約5つのチオールのうち約3個がNACポリスルフィドと結合し、合計で5つの酸化型ポリスルフィドがHSAへ導入された。Poly-NACSn-HSAは近位尿細管上皮細胞内にポリスルフィドを供給せず、また、ミオグロビン誘発の酸化ストレスの消去活性を有していた。poly-NACS2-HSAはグリセロール投与による横紋筋融解症誘発AKIモデルマウスにおいて、腎障害を軽減する傾向が得られた。 以上、還元型および酸化型ポリスルフィドドナーを作製することに成功し、さらにこれらが高い抗酸化活性を有していることを見出した。これらのドナーは、HSAがそれぞれの形態のポリスルフィドを利用して抗酸化作用を示すことを模倣したものであり、生体適合性の高い抗酸化剤としての応用が期待できる。
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