研究課題/領域番号 |
18J11009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
樋口 元樹 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | カチオン重合 / ビニルエーテル / 開環重合 / 環状エステル / 重付加 / タンデム反応 / グラフト共重合体 / 交互共重合体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,カチオン重合を基盤としたタンデム共重合系の開発である。2018年度は,2種類の系(a),(b)の開発を行った。(a)ビニル付加カチオン重合・配位開環重合・アルコキシ基交換(AGE)反応を組み合わせた系では,(1)有効な新規ルイス酸触媒の開発を行った。また同触媒を用いて,(2)モノマー適用範囲の拡張を検討した。(b)重付加カチオン・開環タンデム共重合系では,(3)プロトン酸触媒による共重合の検討を行った。 (1)これまで有効であったHfに代わり,中心金属がB,Al,Tiからなる金属ハロアルコキシド触媒を用いて,エチルビニルエーテル(EVE)とε-カプロラクトン(CL)の共重合を行った。このうちB,Alは不適であったが,Tiは本系に有効と分かった。Ti系での重合挙動はHf系と近く,配位子組成を変えることで両モノマーの消費速度を調節でき,生成するポリマーのグラフト密度も同程度であった。(2)Ti触媒を用いて,種々のモノマー間の共重合を検討した。様々な環状モノマー(メチルCL,ラクチド,環状カーボネートなど)とEVEの組み合わせにおいて共重合が達成された。また2-メトキシエチルVE(MOVE)とCLの共重合では,グラフト密度の著しく高いポリマーが得られた。これはTiとMOVE側鎖の特異的な親和性によりAGE反応が頻発したためと考えられる。さらに3つの反応の速度バランスの調節により,多様なグラフト構造を設計できた。 (3)モノマーとしてヒドロキシブチルVE(HBVE)とCLの存在下,EtSO3Hを触媒に用いると,交差生長を伴う共重合が進行した。共重合体の配列はモノマー仕込み濃度の調節により大まかに変化した。また重合系中でHBVEユニットに由来する2つの副反応(解重合・スクランブリング反応)の存在が明らかとなった。これらの特徴を利用し,減圧処理を通じた新しい交互共重合体の合成法を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究概要に記した様に,本年度の主な結果として,(1)中心金属がTiからなる有効な触媒系を見出し,(2)これを用いて,VEと種々の環状モノマーの共重合が可能となった。また(3)重付加カチオン・開環タンデム共重合系において,様々な配列からなる新しい共重合体が得られた。これらの項目に関して,昨年度の計画に沿って順調に進行した。 さらに当初の計画以上に進展した項目として,以下の2点が挙げられる。 ・上記(2)にて,Ti触媒系でモノマーにMOVEとCLを用いた際に,グラフト鎖の割合が著しく高いポリマーが得られた。MOVEのエチレンジオキシ側鎖とTi触媒の特異的な親和性が鍵であった。さらにモノマー仕込み濃度などの条件検討を通じ,グラフト鎖の割合が最大で88%に達するなど,非常に幅広いグラフト構造を設計することができた。 ・上記(3)にて,系に特有の副反応(解重合・スクランブリング反応)を利用した新しい交互共重合体の合成法を見出した。即ち,まずCL単独連鎖の無い共重合体を合成し,続いて系を減圧することでHBVE単独連鎖を消失させるという手法である。2つの副反応の選択性(CLに隣接したHBVEユニットでは進行しない)が設計の鍵であった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ,2019年度は,上記(a)では,(1)様々な構造からなるグラフト共重合体の物性測定及び材料としての応用を検討する。(b)では,(2)新しい交互共重合法における反応挙動の詳細解析,(3)種々のモノマーからなる交互共重合体の合成を行う。 (1)では合成した種々のグラフト共重合体を用いて, DSCによる熱分析,粘度プロット,バルクでの相分離挙動などを測定し,構成モノマーの種類あるいはポリマー構造の違いが及ぼす影響を調べる。また合成したグラフト共重合体の特徴を活かし,酸化チタンなどの難分散性物質の分散剤としての応用を検討する。用いるポリマーの構造や分散工程を様々に検討することで,分散性に影響を及ぼす要素について議論する。 (2)では,得られた交互共重合体の詳細構造を1H NMRやGPC,ESI-MS測定などから解析する。具体的には単独連鎖や頭-頭結合のようなエラーの割合を定量的に調べ,それらが生じた理由ついて考察し,改善の可能性を探る。またモノマー濃度や重合温度,減圧処理時間といった重合条件の違いが,生成する交互共重合体の分子量や分子量分布に及ぼす影響について調べ,本手法により合成可能なポリマー構造の範囲を推定する。 (3)ではモノマー適用範囲の拡張を目指し,種々の環員数や置換基からなる環状アセタールと環状エステルの共重合を検討する。このように異なる反応性や解重合性を有するモノマーを用いることで,交互共重合を達成する上で必要となる条件を明らかとする。また環状カーボネート等の異種モノマーの使用や,EtSO3H以外のプロトン酸触媒での重合も検討する。さらに本系のコンセプトを異なる重合系へと応用できる可能性を探る。
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