研究課題/領域番号 |
18J11120
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野沢 紘佑 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | トランスポゾン / 環境ストレス / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究は、シロイヌナズナにおいて同定された熱活性型レトロトランスポゾンONSENの転移制御機構を解明することを目的とした。 本研究者は茎頂分裂組織での組織特異的な解析のため、INTACT(isolation of nuclei tagged in specific cell types)を用いてセルソーティングを行った。具体的には、茎頂分裂組織で発現するプロモーターを用いてビオチンタグを組織特異的に発現する形質転換体を利用することで、茎頂分裂組織を特異的に選抜、回収した。ONSENはsiRNA生合成経路の変異体では次世代へ伝わる転移が観察されるため、この形質転換体とsiRNA生合成経路の変異体(nrpd1)を交配し、PolIV変異体バックグラウンドの形質転換体を作出した。これらの形質転換体では、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズを用いることで、茎頂分裂組織の細胞を収集することができる。 INTACT後のサンプルから茎頂分裂組織のRNAを抽出し、実生とのONSENの発現量の比較を行った。その結果、茎頂分裂組織では、実生と比べONSENの発現が抑制されていることが明らかになった。このONSENの組織特異的な抑制の詳細な解析のため、RNA-seqを用いて野生型の茎頂分裂組織における網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、茎頂分裂組織では、DNAメチル化やヒストン修飾に関わるエピジェネティックな因子の発現が高いことが明らかになった。 また、茎頂分裂組織でのONSENの発現抑制が他組織からのsiRNA輸送によって起きている可能性を調べるため、ヘテロ接木を用いたsiRNAの組織間移動の解析を行った。検出にはONSENのsiRNAを特異的に認識するカスタムプライマーを用いたTaqMan qRT-PCRで解析を行った。しかし結果として、穂木からONSENのsiRNAは検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、組織特異的な転写解析、siRNAの組織間移動の観点から解析を行い、一定の成果が挙がったと考えている。組織特異的な転写解析では、茎頂分裂組織特異的にビオチンタグを発現させる形質転換体を利用し、nrpd1との交配を行い、F2集団よりnrpd1変異を持つ形質転換体を得ることができた。この形質転換体を用いた解析から、ONSENの転写レベルが組織特異的に制御されていることを明らかにした。来年度はこの形質転換体を用いて、ヒストンの修飾やクロマチンの凝縮を解析する予定である。siRNAの組織間移動に関しては接ぎ木技術を利用して解析を行ったが、 ONSENのsiRNAの移動を検出することはできなかった。今回の解析法はリアルタイムPCRベースで特定領域から発現されるONSENのsiRNAを対象に解析を行ったため、検出法、検出感度の問題で検出できていない可能性は否定できない。今後、組織特異的な制御を念頭に、様々な角度から解析を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、レトロトランスポゾンONSENの転移制御機構を解明することが目的である。野生型においても熱ストレスによって転写は活性化するが、siRNA生合成経路変異体(nrpd1)では転写量が増加し、次世代において高頻度な転移が観察される。生殖成長への移行前に熱ストレス処理を行っているため、次世代へ伝わる転移は植物幹細胞での転移が反映されていることが示唆されていた。今年度の研究成果より、野生型では、植物幹細胞を含む茎頂分裂組織でONSENの発現がより厳しく抑制されていることが明らかとなった。このため、野生型では、茎頂分裂組織においてONSENの発現を抑制することにより、次世代へ伝わる転移を抑制していると考えられる。来年度は、nrpd1変異体バックグラウンドで茎頂分裂組織特異的な発現解析を予定している。さらに、発現制御機構を明らかにするため、組織特異的なChIP-seqを用いてヒストン修飾を解析し、詳しいメカニズムを理解する。
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