隕石衝突の際に発生する衝撃圧縮により隕石や天体を構成している鉱物には衝撃の痕跡が残される.従来の研究では,衝撃後の試料観察や衝撃中のマクロな衝撃波の状態観察実験から衝撃下での変化メカニズムが推測されていた.本課題では,鉱物の衝撃下でのミクロスケールな変化を直接観察する実験システムを構築し,鉱物の衝撃下での変化メカニズムを明らかにすることを目指した. 実験は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PF-ARで行なった.衝撃状態はレーザー衝撃圧縮法により発生させ,その衝撃下での結晶構造を放射光X線を用いて観察した.本年度は,昨年度までに整備したシステムを用いて放射光測定を行なった.まず多結晶Al箔試料の衝撃下での挙動を観察し,整備した実験システムで発生される衝撃圧縮状態の観察,その際のAl結晶粒子の挙動観察を行なった. 衝撃下でのX線回折像の変化から,Alの各結晶面が衝撃により圧縮され,その後約10ナノ秒後には解放される様子が観察された.結晶格子面の収縮から衝撃圧力は17 GPaでその際の歪み速度は4.6×10^7 s-1であることが確認された.本実験で用いた試料は結晶粒子が数10マイクロメートルであり,X線の試料表面でのビームサイズは数100マイクロメートルであるため,衝撃前はX線回折像が点状であったが,衝撃圧縮と同時に回折X線は回折角軸方向と同心円状に広がり,結晶粒の微細化がおきたことが確認された.また,衝撃前の状態から結晶粒が選択配向していたが,微細化がおきても選択配向は変わらず結晶粒が配向は変化させずに微細化を起こしていることが明らかになった. 本研究では,さらにレーザー速度干渉計での衝撃圧縮状態の観察システムも整備し,20 GPa程度の衝撃圧での衝撃実験システムが放射光施設に構築された.鉱物に関する測定も開始し,衝撃下での構造相転移も直接観察から明らかになってきている.
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