研究課題/領域番号 |
18J11135
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
赤尾津 翔大 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 数値解析 / 微粉炭 / 固気反応 / 燃焼 / 乱流 |
研究実績の概要 |
本研究では,化学反応に関する情報をデータベースとして保存し,それを流体計算に使用する手法(Flamelet approach)を固気二相流に拡張することで,反応を伴う固気二相流中における化学反応を素反応レベルで記述することを目的としている.本年度は,まず,当研究グループが開発した微粉炭の反応モデルをさまざまな炭種へ適用し,その妥当性について評価した.その結果,ターゲットとしていた炭種に加え,性状の異なる石炭の反応速度も精度よく表現可能であることが確認され,同モデルが幅広い石炭に対して適用可能であることが示された.また,単一微粉炭粒子の燃焼シミュレーションでは,従来のモデルで見られていた反応速度の非現実的な挙動が改善され,同モデルを用いることで,より実現象に近いシミュレーションが可能になることがわかった.次に,本研究のベースとなるFlamelet approachを使用するための機能をin-houseコードに組み込み,ガスを燃料とした三次元非定常乱流燃焼シミュレーションを実施した.その結果,従来用いてきたモデルと比較して,速度や主要な化学種の濃度の実験値をより高い精度で表現可能なことを示した.これは,従来のモデルが燃料と酸化剤ガスの混合速度のみから反応速度を推算するのに対し,Flamelet approachではアレニウス型の化学反応速度式で記述される有限の化学反応速度を間接的に考慮可能になるためである.さらに,Flamelet approachを反応を伴う固気二相流に拡張するためにデータベースに新たな次元を加えた.具体的には,複数の燃料ガスおよび固気間の干渉に対応する説明変数である「燃料ガスの比」および「エンタルピー」を新たに加え,固体が存在する環境下においても化学反応を高精度に予測可能な手法を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,1)微粉炭の反応モデルの他炭種への適用性の評価,2)in-houseコードへのFlamelet approachの実装,3)Flamelet approachと乱流解析の連成,4)反応を伴う固気二相流への拡張を目的としたデータベースの多次元化,5)Flamelet approachを用いた固気二相流の三次元非定常シミュレーションに大別され,平成30年度に1)~3)を,平成31年度に4)および5)を実施する予定であった.1)について,当研究グループが開発した微粉炭の反応モデルを性状の異なるさまざまな石炭に適用したところ,いずれの石炭の反応速度も提案したモデル式で精度よく見積もることができた.この結果から,同モデルが幅広い石炭に適用可能であることがわかった.2)について,Flamelet approachを使用するための機能をin-houseコードに実装し,単純な層流拡散火炎を対象に検証を実施した.その結果,低計算負荷で素反応を直接解く詳細化学反応機構を用いた場合と同等の精度の解析を行うことができることが確認された.3)について,Flamelet approachと乱流の非定常解析手法を組み合わせ,既往の実験を模擬した三次元非定常乱流燃焼シミュレーションを実施することで本手法の精度を確認した.さらに4)を前倒しして行い,Flamelet approachで使用するデータベースの多次元化を行った.具体的には「微粉炭から放出される揮発分ガスと炭素分由来のCOガスの割合」を表すパラメータおよび「固気間における熱の授受」を表現するためのエンタルピーを新たにデータベースに加え,固気反応の影響を考慮可能な多次元データベースを構築した.すでに構築したデータベースを用いた検証も実施しており,詳細化学反応機構を用いた場合の数値解を高い精度で表現可能であることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは層流の比較的単純な系を対象に固気反応を含むデータベースの検証を実施していたため,今後は乱流を伴う,より工業的な燃焼炉に近い実験系を対象に本手法の精度を評価したのち,残りの課題である5)を実施する予定である.乱流を伴う系を対象にする場合,その変動分を考慮することにより新たにもう一つ次元が必要になるが,データベースの多次元化に伴い,データベース自体の容量が非常に大きくなってしまう.本データベースを用いて大規模並列計算を実施した場合,必要なメモリが膨大になるという問題が生じることが想定されるため,可能な限りデータベースの容量を削減する必要がある.したがって,当初の計画にはなかったが,乱流変動を記述する関数の簡素化によるデータベースの低次元化を新たに実施する予定である.5)の解析対象の候補としては一般的な乱流燃焼炉のほかに,微粉炭に同伴する噴流が側方から高温気流を受けるクロスフロー型の環境も挙がっている.これは,本系が微粉炭が活用されるさまざまな環境において見られる系であり,本シミュレーションから得られた知見の展開先が広がることが想定されるためである.最終的には,温度や石炭の性状を変化させたケーススタディを実施し,各条件における微粉炭の火炎構造の変化を把握するとともに,微粉炭の反応を促進するための条件や炭種といった,産業活動にも有用な知見を獲得したいと考えている.得られた研究成果は国際会議や国際誌をとおして世界に発信する予定である.
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