研究課題/領域番号 |
18J11160
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
品川 遼太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 分子モーター / アクティブマター / パターン形成 |
研究実績の概要 |
ガラス基板上に分子モーターを一様に配置し、多量のタンパク質フィラメントとATPを添加すると、分子モーターに駆動されたフィラメントが動的な渦構造を形成することが知られている。フィラメントを速度一定で動く粒子とみなした自己駆動粒子モデルのシミュレーションでは、渦構造形成のためには粒子数密度が高いことと一個の粒子が進行方向を維持し続けようとする時間(進行方向維持時間と呼ぶことにする)が長いことが必要であることがわかっていた。しかし、自己駆動粒子モデルでは渦構造形成にとって重要な進行方向維持時間をパラメータとしているので、系におけるどのような性質が、フィラメントの進行方向維持時間を長くしているのかがわからなかった。 本研究では、この性質を調べるため、一分子実験で得られている分子モーターの性質を反映したモデルを用いて、一本のフィラメントの進行方向維持時間を見積もった。本研究のモデルでは、先行研究で示唆されていた渦構造形成の条件に必要な長さの進行方向維持時間は見られなかった。フィラメントの弾性や分子モーターの大きさなどを変えて計算を行っても、同様の結果になった。 そこで、一本のフィラメントが長い進行方向維持時間を持つのではなく、フィラメント同士の相互作用によって進行方向維持時間が長くなるのではないかという仮説を立て、進行方向維持時間をパラメータとしないモデルで系に特徴的な構造が現れないかを調べることとした。長さを持った自己駆動体のモデルを考案し、自己駆動体密度と長さの変化によって、その集団運動に質的な変化が見られるかどうかを調べた。その結果、これらの変化に対し、接触した自己駆動体同士が系全体に広がりを持っているかどうかで質的な変化が見られることがわかった。渦構造は全体に広がりを持った構造の特別な場合と考えられるため、今後、渦構造形成のメカニズムの理解に繋がるのではないかと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
複数の分子モーターに駆動される一本のタンパク質フィラメントの運動を記述するモデルを用いてシミュレーションを行った。モデルではフィラメントの弾性、分子モーターの密度、大きさ、フィラメント上での最高速度などをパラメータとして、フィラメントの運動をシミュレートできる。採用時から9月までは、このシミュレーションによって主に一本のフィラメントの進行方向維持時間を計算した。 一本のフィラメントの進行方向維持時間をパラメータとした自己駆動粒子モデルでは、この時間が長いことが渦構造形成の必要条件であることが示唆されていた。しかし、本研究で得られた進行方向維持時間は、自己駆動粒子モデルにおいて渦構造形成に必要な値の100倍以上小さい値であった。パラメータを変化させてもこの結果は変わらなかった。したがって、進行方向維持時間はもともと長いのではなく、フィラメント密度が高くなることで長くなるのではないかと考えた。 本研究では、この仮定のもと、進行方向維持時間をパラメータとして用いない自己駆動体モデルを立て、自己駆動体集団が渦構造を形成しないかを調べた。モデルでは自己駆動体は長さを持つものとし、その先端以外の部分は先端の軌跡上を動くとした。9月から3月までは、このモデルを用いたシミュレーションを行った。結果として、渦構造の出現を再現できてはいない。しかし、自己駆動体の密度や長さの値によって、接触した自己駆動体が系全体に広がりを持つ、持たないを分類できるという結果が得られた。 途中で研究方針を転換しているが、9月から3月にかけての結果で今後の進展を期待できる結果が得られているので、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
30年度の研究では長さを持つ自己駆動体モデルを用いて、接触した自己駆動体同士が系全体に広がりを持っているかを調べた。30年度に用いたモデルではパラメータが多いこと、自己駆動体同士の衝突の扱い、自己駆動体同士が接触しているかどうかの判定の扱いが複雑なことが結果を解析する上で問題となっていた。そこで、長さを持つ自己駆動体が格子上を動くような簡略化モデルを提案する。このモデルは、昨年度用いたモデルのうち、長さを持つ自己駆動体の先端以外の部分は先端の軌跡上を動くこと、二本の自己駆動体の衝突角によって衝突後の自己駆動動体の振る舞いが異なるという重要な部分以外の要素を削ぎ落としたものになっている。このモデルにおいてはパラメータは3つのみである。系のサイズ、自己駆動体の長さおよび個数である。 格子上を動く自己駆動体モデルは実装済みであり、実際にシミュレーションでは複数の自己駆動体が衝突しながら運動する様子が見られている。まず、自己駆動体の長さと個数を固定して、長時間後の自己駆動体の振る舞いをシミュレーションで得る。複数のサンプルをとり、そのうち接触した自己駆動体同士が系全体に広がっているような場合の割合を計算する。そして、上記二つの引数に対して、系に質的な変化が見られるかを調べる。その後、系のサイズ依存性についても調べ、臨界点を見積もる。また、臨界点が上記二つのパラメータに対してどのように依存するかを調べ、得られた結果を考察する。 31年度の後半は現在のモデルを基礎として、自己駆動体にさらに曲げに対する弾性を持たせて(つまりパラメータを一つ増やして)計算を行い同じ解析を行うことを考えている。
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