ガラス基板上に分子モーターを一様に配置し、多量のタンパク質フィラメントと ATP を添加すると、分子モーターに駆動されたフィラメントが動的な渦構造を形成する。本年度は渦構造がフィラメント間の相互作用のみによって形成されるものであると考え、第一に、各フィラメントを長さを持つ自己駆動体としたモデルを用いたシミュレーション解析を行った。本研究のモデルにはパラメータが3つ存在する。系のサイズ、自己駆動体の長さおよび密度である。本研究のモデルでは渦構造は再現されなかった。しかし、系のサイズを様々に変えて計算を行った結果、駆動体密度の変化に応じてパーコレーション転移が見られることがわかった。また、パーコレーション理論の手法から、転移における臨界密度および臨界指数を求めた。その結果、臨界指数は自己駆動体の長さに依らず、一般の二次元サイトパーコレーションで見られる臨界指数と同じ値になることがわかった。一方、臨界密度は長さが長くなることで下がることがわかった。これらの結果を7月に国際会議にて発表した。 次に、自己駆動粒子モデルで見られるマクロな状態をパーコレーションの観点から調べた。調べたモデルは、互いに配向(進行方向の向きを揃える)相互作用する自己駆動粒子モデルである。モデルのパラメータは系のサイズを除けば密度、相互作用強度の2つである。シミュレーションの結果、相互作用の強弱に応じて、系には3つのマクロな状態が存在することがわかった。相互作用強度が小さい場合、各粒子はランダムな運動をする。強度を大きくすると、粒子集団はクラスタを形成し、クラスタ領域と周りをランダムに動く粒子の領域に分かれた状態になる。強度をさらに大きくすると、クラスタ領域の進行方向が揃い、その形状が帯になる。粒子がランダムに動く状態でのみ、パーコレーション転移が存在し、それ以外の領域では転移が見られないことを明らかにした。
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