研究課題
本研究は、天敵を選択的に誘引する波長405 nmの紫色光を野外圃場にて点灯した際に生じた生物種の密度変動の原因を明らかにするべく、3つの仮説の検証を行うことを目的としている。本年度は、仮説1および2の検証を行った。始めに、検証に必要なサンプルを確保するために、無農薬栽培を行っているナスの露地圃場にて紫色光を点灯し、サンプリングを行った。ナスの葉10枚に発生する虫の密度調査とヒメハナカメムシおよび害虫種のサンプリングを週2回採集し、8月下旬には高次捕食者の採集を行い、得られたサンプルを-30℃以下で保存した。同時に、仮説1“LEDによる直接作用”を検証するべく、ナス上で発生したヨコバイを用いて波長選択実験を行った。実験は、暗室内で行い、紫色光を照射した区画(点灯区)と何も照射しない(無点灯区)を設け、どちらへ誘引されるのかを観察をした。その結果、約4割の個体が紫色光に誘引された。また、本種を点灯区に放し行動を観察したところ、点灯区からの移動は見られなかった。アブラムシおよびクモ類は発生量が少なく検証できるほど採集できなかったため、栽培圃場での経時的な密度変動を基に検証を行った。その結果、紫色光の点灯後に急激に密度が変化するようなことはなく、直接作用は確認されなかった。従って、これらの生物種の密度変動は仮説1“LEDによる直接作用”によるものではないことが証明された。次に、仮説2の検証を行うために、始めにサンプリングで得た害虫種の種同定を行った。その結果、発生していた害虫はタイズアザミウマ、ワタアブラムシ、ミドリヒメヨコバイの一種であることが判明した。同時に、各害虫種のmtDNAに含まれるCO1領域の塩基配列を決定し、これらの害虫種に特異的なプライマーを作成した。これにより、捕食者DNAの誤検出を防ぐために使用が予測されたペプチド核酸を用いる必要がなくなった。
3: やや遅れている
平成29年度に実施したナスの無農薬露地栽培圃場における紫色光の点灯試験では、全体的に昆虫の発生量が少なく、仮説検証に充分なサンプル量が確保できなかった。そのため、本来の予定にはなかった露地調査を、仮説検証に必要となるサンプル数を用意するために実施する必要が出たため、実験計画の進行が遅れてしまった。一方で、害虫種に特異的なプライマーの作成により、仮説2および3にて捕食者DNAの検出を防ぐために使用する予定だったペプチド核酸を準備する必要がなくなったため、研究遂行に大きな遅れは発生しなかった。
今後は、仮説2の続きおよび3の検証を主体に実験を行う。仮説2の検証では、昨年度に引き続き捕食者ヒメハナカメムシの腸内に残る被食者DNAの検出を行う。検出は、昨年度に作成したアザミウマ、アブラムシ、ヨコバイのmtDNAに含まれるCO1領域の配列を増幅するプライマーを用いて行う。これらのプライマーは、各害虫種に特異的なプライマーであり、捕食者のDNAを検出することなく被食者DNAのみを検出できる。そのため、前年度で捕食者DNAの誤検出を防ぐために使用が予測されたペプチド核酸を用いることなく、捕食者ヒメハナカメムシの捕食内容物が調査出来る。本検証にて使用するサンプルは、昨年度および一昨年度の試験圃場にて採集したヒメハナカメムシであり、DNA抽出にはホールボディを使用し、各害虫種に対する捕食率を明らかにする。この結果を、昨年度および一昨年度の調査結果であるの密度変動と比較することで、ヒメハナカメムシの餌選択と各害虫種の密度との間に関連性があるのか否かを考察する。仮説3の検証では、昨年度および一昨年度の試験圃場にて発生した高次捕食者の腸内に残る被食者DNAの調査を行う。本検証で使用するプライマーは、仮説2の検証で使用した各害虫種のプライマーと、ヒメハナカメムシに特異的なプライマーとする。また、効率的なDNAの抽出を行うために、クモ類は捕食内容物調査とは関係ない脚を、テントウムシ類はさや羽を除いた部分をサンプルとして使用し、これらの高次捕食者の捕食内容物および各被食者に対する捕食率を明らかにする。この結果をもとに、各高次捕食者が各害虫に与えていた密度抑制効果を考察する。以上の結果から、本研究の目的である天敵の誘引波長光を照射した際に生じた生物種の密度変動について考察する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
BioControl
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10.1007/s10526-019-09926-4
植物防疫
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