研究課題/領域番号 |
18J11212
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森近 一貴 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 多段階振動励起 / 化学反応制御 / 波形整形 / 超短パルスレーザー / プラズモニクス / 赤外超高速分光 / 金属カルボニル錯体 / 凝縮相 |
研究実績の概要 |
【目的】本研究の目的は,赤外フェムト秒パルス電場の時空間制御により,分子の振動励起状態を自在にコントロールする手法の開発である.具体的には,波形整形されたフェムト秒パルスを局在表面プラズモン共鳴によりナノ空間に閉じ込め,分子と強く相互作用させることで,凝縮相分子の多段階振動励起効率の向上,さらには分子化学反応の制御を目指す. 【金属ナノ構造の設計・作製・評価】対象分子の吸収帯域で強く共鳴する金ナノアンテナアレイ構造を,有限差分時間領域(FDTD)法に基づく数値計算により求めた.計算で得られた構造を,東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の電子線描画装置を用いて作製した.走査型電子顕微鏡及びFTIRにより作製した構造の評価を行い,所望の構造が得られている事を確認した. 【振動励起による解離反応制御】作製した金ナノ構造上に金属カルボニル錯体の液体薄膜試料を形成し,赤外ポンプ・プローブ分光実験を行った.負チャープ付与及び金ナノ構造の電場増強効果により励起効率が飛躍的に向上し,第6振動励起状態への強励起を初めて実現した.さらには,強励起による結合解離反応の誘起に成功し,理論計算から解離生成物が金ナノ構造表面に吸着していることが示唆された. 【本成果の意義】赤外フェムト秒パルスによる解離反応制御は古くから試みられてきたが,凝縮相分子に対しては低い励起効率ゆえに未だ実現されていなかった.本研究では,プラズモン電場増強と波形整形を組み合わせ光-分子相互作用を高めることで,凝縮相分子の振動励起による解離反応誘起に初めて成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
赤外域で顕著な電場増強効果を示す金属ナノ構造の設計・作製・評価はスムーズに進み,早い段階で超高速分光実験に進んだ.超高速分光実験では,金属ナノ構造を介した光-物質相互作用の定式化という学術的課題や,金属ナノ構造からの散乱光ノイズの除去という技術的課題に直面したが,それらを着実に解決し,表面増強型の超高速振動分光の原理実証実験に成功した. 次に,赤外フェムト秒パルスの時間波形制御とプラズモン電場増強の両立により,金属カルボニル錯体分子の高振動準位への励起,さらには結合解離反応の誘起に成功した.これは,凝縮相分子においては初めての成功例である.実験開始当初,計測された信号の解釈に苦戦したが,いくつかに仮説を立てそれらを検証する実験を行うことにより,上記の結論を得るに至った.
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらにもう一歩駒を進め,解離反応ダイナミクスの観測を試みる予定である.これを実現するには,解離反応の高効率化と超高速分光計測のさらなる高感度化が必要であり,数値計算により最適な時間波形および金属ナノ構造の探索を進める.
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