研究課題/領域番号 |
18J11305
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
石川 優真 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / 代謝 / 光合成 / NAD |
研究実績の概要 |
NAD (ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド) は生体内酸化還元反応を司る電子伝達運搬体である。 細胞内において、NAD には酸化型の NAD+と還元型の NADH に加え、それぞれがリン酸化された NADPと NADPH が存在し、様々な代謝反応に関与する。NAD が 4 形態で存在するのは、一つ以上の代謝反応を同時に調節するためだと考えられる。しかし、「NAD(H) のリン酸化が、どの代謝系を通じて、どのような生理応答に関与しているのか」という点は不明確である。そこで本研究では、NADのリン酸化を担う NADK の代謝的役割に着目して解析を行った。また、シアノバクテリアのSynechocystisが二つのNADKを用いてどのようにNADのリン酸化を調節しているのか、という点に着目し、それぞれのNADK が培養環境に依存して使い分けられていることを示した。それぞれのNADK破壊株と高発現株を用いた代謝解析や分子生物学的解析によって、sll1415は従属栄養条件の糖代謝に必須であり、細胞接着や凝集に関与していることを示した。一方、slr0400は強光条件で必須であり、強光条件で枯渇するNADP供給を担っているとの仮説を立て、光合成電子伝達の状態を評価した。その結果、当初 slr0400 破壊株では光合成電子伝達の下流が詰まり、強光下でストレスを受けていると予測してい たが、予想外に slr0400 破壊株は光化学系Ⅱが直接影響を受けていることを示した 加えて、slr0400破壊株ではNADが蓄積することによって従属栄養条件で増殖が亢進することを見出した。slr0400破壊株ではNADが蓄積していることから、NAD量の調節を介して増殖対数期を長く維持するための増殖のストッパーとして働いていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グリコーゲン量の定量、グリコーゲン合成の遺伝子発現、酵素活性測定、代謝解析、グルコース量の定量により、sll1415破壊株が増殖阻害を引き起こす原因が酸化的ペントースリン酸経路へのNADP+供給が不足したことにあることを明らかにした。相補株で表現型の回復を確認したのち、結果を取り纏め論文として発表した(Ishikawa et al. 2019)。 さらにslr0400破壊株はLight-activated heterotrophic condition (LAHG)条件でWTよりも早く生えることを発見した。LHAG条件というのは、基本的には暗所で培地にグルコースを添加しておき、一日に一度光を照射する条件である。その為、まずは明暗の切り替えやグルコース代謝にslr0400がどのように関与しているのか調べるために関連しそうな条件で増殖度を調べた。その結果、LAHG条件ではやはりWTが緩やかに増え続けている状態なのに対し、slr0400破壊株は早い増殖度を示しつつ、対数増殖期になるまでの時間が短かった。さらに明暗 (12H_light/12H_dark)でグルコースを添加しておく条件でもslr0400破壊株はWTよりも増殖度が早かった。暗所でグルコースを添加しないと、WTもslr0400破壊株も増殖しない。また、暗所でグルコースを添加してもWTは増殖しないが、slr0400破壊株はわずかに増殖することがわかった。このことからslr0400破壊株はこの増殖の抑制機構に異常が生じ、増殖が亢進することで栄養を早く消費し、対数増殖期に入るタイミングがWTに比べて早くなっていると考えた。すなわち、slr0400は増殖対数期を長く維持するための増殖のストッパーとしての機能を有する、という新たな仮説を提案した。
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今後の研究の推進方策 |
従属的な栄養条件でsll1415破壊株と似た表現型がないか探していると、時計遺伝子のKai遺伝子が破壊された株が増殖阻害を引き起こすことが報告されていた。その為、時計遺伝子の破壊株を作出し明暗+グルコースを添加しておく条件で増殖度をみるとやはり時計遺伝子破壊株は増殖阻害を引き起こす一方で、sll1415破壊株も明暗+グルコース添加条件で増殖阻害を引き起こした。明暗条件下でNAD(P)(H)量を3時間ごとに3日間測定すると、暗所から明所に移してから6時間のタイミングでNADP+が上昇していることがわかった。そこでsll1415破壊株と時計遺伝子破壊株を並べて再度NADP+量を測定してみるとsll1415破壊株と時計遺伝子破壊株ではNADP+の上昇がみられなかった。今後、時計遺伝子の破壊株をsll1415で相補できるかどうかを表現型ベースで調べた後、シアノバクテリアにおけるNAD(P)(H)量の調節とサーカディアンリズムとの関連性を分子的に明らかする。大腸菌でシアノバクテリアの二つのNADKの生化学的な性質を調べるために、Hisタグ、GSTタグを付加したNADKをIPTG添加や低温誘導のできるベクターに組み込み、リコンビナントタンパクの精製を試みた。誘導はいずれの場合もかかるが、すべての場合でタンパクが不溶性画分に検出された。GSTタグの場合、ほんのわずかに可溶化していたため大量培養によりタンパク精製を行ったが、どちらのNADKも有意な活性を検出することができなかった。今後も可溶化条件のさらに詳細な検討、酵母発現系を用いた精製の検討、タバコの葉を用いた一過的発現の検討を試す。 slr0400破壊株でのNAD(H)の蓄積がどの代謝系に寄与しているのかを代謝解析によって明らかにし、活性酸素の発生量、呼吸速度の測定を行い、slr0400破壊株に関する解析を論文として取り纏める。
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