研究課題/領域番号 |
18J11316
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤井 祥万 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
キーワード | 蓄熱輸送 / ゼオライト / 吸脱着現象 / 充填層内伝熱モデル / 移動床 |
研究実績の概要 |
種子島の製糖工場からの未利用熱発生と,熱需要地における化石燃料による熱需要の時空間ギャップを解消するために,ゼオライトの水蒸気吸脱着サイクルを用いた蓄熱輸送システムの導入を検討している.システムは出熱,輸送,蓄熱の3ステップに大別でき,出熱側では主に食品プロセスで用いるため,連続的な加圧蒸気生成が求められる.安価な常圧容器で加圧蒸気の連続生成を実現するために,これまでに考案した移動床・間接熱交換方式を採用した「ゼオライトボイラ」を実験と数値解析の両面から検討した.これまでに設計・製作したゼオライトボイラ実証設備において各種熱損失を低減し,ゼオライト流量10 kg/hで試験した結果, 0.2 MPaの過熱蒸気を連続的に生成することに成功した. また,ゼオライトの吸脱着特性については,水蒸気に対して不活性なアルミナボールでゼオライトを希釈し,発熱の影響を抑制した等温反応器を用いて吸脱着に伴う物質移動現象のみを抽出した試験を実施し,吸着速度モデルを組み込んだ一次元数値解析モデルで解析することにより,定式化した.また,伝熱特性については充填層反応器を用いてゼオライト層周方向の温度分布を非定常で計測し,円筒二次元数値解析モデルによる結果と比較検討することで,既報モデルの妥当性を確認した.以上,吸脱着特性および伝熱特性を,ゼオライトボイラを模擬した擬似二次元数値解析モデルに組み込み,性能を予測した.数値解析結果は試験結果の温度分布および熱バランスを概ね模擬できており,開発した数値解析モデルの妥当性を確認した. 妥当性を確認した数値解析モデルを用いて実スケールのゼオライトボイラの性能曲線を求め,仕様,運転条件を決定し,経済性評価に落とし込んだ.コスト構造分析の結果,蓄熱側における熱交換器,出熱側におけるゼオライトボイラに内装する熱交換器,輸送コスト等がコストの支配要因であることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の最大のハードルであったゼオライトボイラによる加圧蒸気の連続生成は,熱回収量に課題があるものの,成功した.さらに物質移動現象は発熱の影響を抑制した等温反応器で,熱移動現象は充填層反応器でそれぞれ試験し,数値解析することによりモデル化に成功し,ゼオライトボイラを模擬した擬似二次元数値解析モデルに組み込んた.ゼオライトボイラの数値解析モデルは試験結果を概ね模擬できており,その妥当性を確認することができた.特にゼオライトボイラによる加圧蒸気の連続生成成功のインパクトは大きい.吸着材を用いた蓄熱利用研究はこれまで欧州を中心に研究開発が進められてきたが,温湯生成が主であり,住居等の暖房や地域熱といった用途の枠を脱していなかった.しかし産業界は温湯ではなくプロセス蒸気を多く使用しており,蓄熱技術を利用した加圧蒸気の連続生成の成功は,産業界への適用可能性向上に大きく貢献したといえる. また,妥当性を確認した数値解析モデルを用いて実スケールのゼオライトボイラの性能予測を実施し,性能曲線を描くことにより,ゼオライトボイラの運転条件を具現化することができた.実スケールの仕様や運転条件からシステムの経済性評価を実施し,コスト構造分析,感度解析の結果,システムコストの支配要因が蓄熱側,出熱側双方の熱交換器,輸送コストであることを特定することができ,また感度解析の結果からゼオライトボイラと協調運転する既設ボイラの燃料削減量の増大がシステムの経済性に大きく影響することがわかり,次年度への研究につなげることができた. これは当初の計画通りであり,概ね順調に研究が推移しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果を受け,ゼオライトボイラにおける燃料削減率の増大(熱回収量の増大)に着目し,主に以下3つの課題に取り組む. (1)昨年度に実施した試験では,伝熱面積不足が示唆された.実装型のゼオライトボイラは限られたスペースに広大な伝熱面積を確保する必要がある.そこで今年度は実装型ゼオライトボイラの完全縮小版として,プレートフィン型熱交換器の設置を検討する.これまでに開発した擬似二次元の数値解析コードを拡張し,各プレート間のゼオライト層内の温度,水蒸気分圧変化等を予測可能な二次元数値解析モデルを開発する.開発した数値解析モデルは試験により妥当性を確認し,実スケールの性能予測に用いる. (2)これまで多くのゼオライトが蓄熱材として研究開発されてきた.しかし多くの吸脱着特性は,トレードオフの関係にある.例えばより強い吸着力・吸着熱を持つ材料は,出熱側でより多くの既設ボイラの燃料を削減できるが,蓄熱時により多くの熱が必要となり,蓄熱ステーションでのコスト上昇を引き起こす可能性がある.経済的に最適な材料の選定には,マテリアルレベルからシステムレベルまで一貫した評価が必要である.そこで今年度はゼオライトの吸脱着特性の違いをゼオライトボイラの数値解析モデルに組み込み実スケールの性能を予測,それぞれの材料において経済性評価を実施することで,経済的に最適な材料を選定する. (3)澱粉工場等,乾燥プロセスを導入している工場では湿潤空気が排出されており,この湿潤空気をゼオライトボイラに噴射することで,既設ボイラ由来の噴射蒸気の一部を代替し,大幅に燃料削減率が向上する可能性がある.昨年度までは蒸気のみをゼオライトボイラ上部から噴射していたが,今年度は一部空気を混合し,湿潤空気噴射プロセスを模擬した蒸気発生試験を実施する.実験と数値解析の両面から湿潤空気噴射プロセスを評価する.
|