研究課題/領域番号 |
18J11320
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 康平 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
キーワード | 鉄系超伝導体 / 高圧下物性 / 電子液晶状態 |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体FeSeは単層薄膜にする、または圧力を加えることによって高温超伝導が実現することが知られている。これらの高温超伝導の起源を明らかにするために、本年度の研究では、FeSeのSeを等電価で原子半径の異なる元素であるSやTeで置換した試料の高圧力下での物性を評価した。元素置換および圧力によって結晶構造のパラメーターをチューニングして高温超伝導が発現する条件近傍での電子状態や結晶構造を調査し、各電子状態の関係と結晶構造のパラメーターの対応関係を調査することを目的とした。 Te置換系においては、従来の合成方法では合成が困難とされている組成が存在しており、圧力と組み合わせた相図が確立されていなかった。本研究でFeSeの純良単結晶試料の合成方法である化学蒸気輸送法によって、それらの組成に関しても合成が可能であることを明らかにした。これにより、低置換組成から広く試料の準備が可能となり、系統的な物性測定が可能になった。さらに得られた置換系の試料の高圧下物性測定を行うことで、FeSeの超伝導相近傍に存在する磁性相および電子液晶相が置換と圧力を組み合わせた電子状態相図で構造パラメーターとともに系統的に変化していることを明らかにした。 また、本年度、電子液晶状態が超伝導に与える影響を調査するために新たにゼロ磁場でのミューオンスピン回転法を用いたFeSeの電子液晶状態での超伝導における微小内部磁場の検出を試みた。その結果、通常の超伝導状態ではゼロ磁場において観測されないミューオンスピンの緩和が観測された。本研究の結果からFeSeの常圧で観測される超伝導は時間反転対称性を破った特異な超伝導であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体FeSeの置換系の圧力下電子相図の研究に関しては、Seより原子半径が小さいS置換系およびSeより原子半径が大きいTe置換系両方向に拡張することに成功し、相図の系統的な変化から各電子相の関係及び、電子相と構造パラメーターの関係が明らかとなってきている。順調に研究が進展していると考えられる。今後は、さらに広範囲にわたる組成の試料の作製とその圧力下基礎物性測定を行うことで系統的な圧力下電子相図の確立を試みる。 さらに、ミューオンスピン回転法を用いたFeSeの電子液晶状態での超伝導における微小内部磁場の検出の研究においては、先行研究では間接的な証拠によって時間反転対称性の破れの可能性が指摘されていたが、本研究によって微小内部磁場が観測され時間反転対称性が破れた超伝導が実現していることの直接的な証拠が得られたと考えている。この物質において指摘されている時間反転対称性の破れた超伝導はこれまで実験的に報告されているものと発現機構が異なり、電子液晶状態の影響で発現している可能性があるため、今後さらに理解を深めるためこれまでに確立した電子液晶状態を示さないS置換系の試料の合成を行い、その試料を用いたミューオンスピン回転法の実験を行う。時間反転対称性の破れた超伝導状態と電子液晶状態との関係を解明する研究を行う計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、圧力下基礎物性測定から鉄系超伝導体FeSeの置換系における圧力下電子相図が広範囲にわたり確立された。従来の合成方法で作製されたFeTeでは、これまでに研究していたものとは異なる磁性が実現していることが報告されており、超伝導が発現していないことも明らかとなっている。また、圧力を加えることで反強磁性から強磁性への転移を発現することも報告されている。そのため、化学蒸気輸送法によりFeTeまで合成手法を確立して系統的に物性評価を行うことで、高温超伝導近傍で発現している磁性相と超伝導相の関係を明らかにすることを計画している。また、X線構造解析を置換系および、圧力下で行うことで、結晶構造のパラメーターを決定し、理論的な研究と比較することで、この系で発現している特異な磁性に関しても理解を深める。 ミューオンスピン回転法を用いたFeSeの電子液晶状態での超伝導における微小内部磁場の検出の研究においても、FeSeにおいて電子液晶状態の影響で超伝導が時間反転対称性を破っているかはいまだ明らかとなっていないので、元素置換をすることによって電子ネマティック相が消失することを利用して、置換系における微小内部磁場の存在の有無を決定する計画である。そのため、S置換系の大型試料の作製手法の確立とそれにより合成した試料でミューオンスピン回転法の実験を試みる。
|