研究課題/領域番号 |
18J11378
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 敬太 九州大学, 総合理工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 核変換 / LLFP / 陽子 / 重陽子 / 同位体生成断面積 / 逆運動学法 |
研究実績の概要 |
高レベル放射性廃棄物中に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)の新たな処理法として核変換技術の確立が望まれている。その概念設計に向けたシミュレーションの精度向上のため、LLFPの一つであるZr-93の核反応データの測定を行い、得られたデータを基に現行の核反応モデルの精度検証と改良を行うことが本研究の目的である。 本年度は①Zr-93の核反応データ測定実験の際に副生成物として得られたNb-93の核反応データの考察及び結果の論文化、②前年度までに測定したZr-93に対する50MeV/u陽子・重陽子入射反応データの解析と得られたデータによる核反応理論モデル計算の精度検証を行った。 ①Nb-93核反応データの考察及び結果の論文化では新たに炭素入射反応データの解析を行い、粒子・重イオン輸送計算コードPHITSに組み込まれている核反応モデルJQMD+GEM,JQMD-2.0+GEMと比較した。さらに解析済みの陽子入射反応データと核データライブラリJENDL-4.0/HE,TENDL-2017,ENDF/B-VIII.0と比較したところ、JENDL-4.0/HEが最も小さなカイ二乗値を示し再現性が高いことが判明した。また、得られた結果をZr-93核反応データと比較することで、中性子魔法数N=50の同位体生成断面積分布への影響を明らかにした。 ②Zr-93の50MeV/uデータについては、測定データを解析することで陽子・重陽子入射反応による同位体生成断面積を導出した。得られた結果をPHITSに組み込まれているINCL-4.6+GEMによる計算と比較したところ、100,200MeV/uで指摘されていた乖離の他に陽子入射反応においてY-87生成断面積を大幅に過小評価していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、前年度までに理化学研究所RIビームファクトリー(RIBF)で実施したLLFPや安定核種に対する陽子・重陽子入射同位体生成断面積測定実験のデータ解析を進展させた。 Nb-93のデータでは、従来よりメカニズムが判明していなかった中性子魔法数N=50が同位体生成断面積分布に与える影響を理論モデル解析を通して解明することができた。さらにNb-93の結果を利用可能な核データライブラリや核反応理論モデル計算結果と比較することでベンチマークの実施や理論モデルの改良すべき点を明らかにし核データ分野に対し大きな貢献を果たしたと考えている。これらの結果は学術論文としてまとめており、次年度はじめに学術誌への投稿を行う予定となっている。 また、Zr-93に対してこれまで測定された105,209MeV/u反応データに加えて新たに50MeV/u反応データを導出し、エネルギー依存性の議論が可能となった。これにより入射エネルギーが50から200MeV/uの領域においてZr-93の陽子・重陽子による核変換の最適な入射エネルギー領域を明らかにすることができた。さらに得られた結果を理論モデル計算結果と比較することで、数十MeV/u領域における新たなフィードバックを理論モデルに提供することができた。これらの研究成果は2019年5月に開催される核データ国際会議ND2019の口頭発表として採択された。 上記2点の研究成果は長寿命核分裂生成物の核変換による減容化・資源化の研究に大きく貢献したと考えているため、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は①同位体生成断面積のまとめ及び国際会議での報告と②中性子相関データの解析である。 ①同位体生成断面積のまとめでは、これまでに得られたZr-93に対する50,105,209MeV/uの陽子・重陽子入射反応による同位体生成断面積データをまとめ、エネルギー依存性の考察や理論モデルとの比較を交えて2019年5月に核データ国際会議ND2019にて口頭発表を行い査読付きProceedingを執筆する。 ②中性子相関データの解析では、209MeV/uデータ測定の際に同時計測を行った中性子データ解析を進展させる。具体的には、検出器の時間・エネルギー・位置校正を行った後にクロストーク解析を行う。クロストーク解析とは、中性子検出器群で複数の中性子が検出された際に、それぞれの信号が同一の中性子による信号かあるいは異なる中性子による信号かを識別することを指し、2つ以上の中性子を解析する際には必要不可欠な解析となる。今後は従来のルールベースによるクロストーク解析と機械学習や最適化を適用したクロストーク解析を行うことにより、複数の中性子に対するエネルギーと放出角度を導出する。得られた中性子データと既に解析済みである同位体生成データを統合することによって同位体・中性子相関データの作成を行う。この成果は11月に開催される核データ研究会にて報告しProceedingを執筆する予定である。最後にここまでで得られた成果を学位論文としてまとめる。
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