研究課題/領域番号 |
18J11405
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齊藤 真彦 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 超対称性粒子 / LHC / トラッキング |
研究実績の概要 |
2つの将来加速器計画における消失飛跡解析の探索感度を評価した。 1つ目はHigh-Luminosity LHC(HL-LHC)である。HL-LHCは、現行のLHCの高輝度化、及び検出器のアップデートを行い、2026年から約10年で3000 ifb のデータを取得する計画である。高輝度化のため、衝突で作られる粒子が大幅に増加し、特にトラッキングにおいては偽の飛跡(フェイクトラック)が増加する。また、飛跡検出器のアップデートのために、トラッキング性能も現行のものと比較して大幅に変化する。LHC/ATLAS実験第二期運転(Run2)でのトラッキング性能、及びモンテカルロ・シミュレーションを併用することで、HL-LHCでのフェイクトラック数を推定した。ビーム衝突頻度の増加に伴い、フェイクトラックが大幅に増加することを確認した。加えて、短い飛跡を再構成する特殊なアルゴリズムを使うことで、期待される新粒子の事象数を計算し、フェイクトラックの事象数と合わせて、新粒子に対する発見感度を推定した。 2つ目はFuture Circular Collider(FCC)である。FCCはLHCのおよそ4倍である100 kmのトンネルを建設し、重心系エネルギー100 TeVのハドロンコライダーを建設する計画である。この計画においては、1回の陽子陽子衝突あたり最大で1000個の非弾性散乱が起こると予想され、トラッキングへの影響が深刻である。飛跡検出器のレイアウトを最適化することで、新粒子のアクセプタンスが大幅に上昇し、消失飛跡解析における探索感度が大幅に上昇することを示した。特に、ダークマターの残存密度から好まれるパラメータ領域をFCCで探索できることを示し、FCCの物理的意義について示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現行のトラッキングは計算時間がヒット数の2-3乗で増加し、将来の高輝度化された加速器では、計算機資源が足りなくなることが予想されている。この問題を解決するために、これまでとは違う視点からトラッキングを試みている。 一つは深層学習を用いたものである。検出器中の各センサーでの反応点を画像として与えることで、荷電粒子位置の推定するモデルを作成し、その評価を行っている。学習にはCPUの他、GPUやTensor Processor Unit(TPU)での学習も行い、その性能比較も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
LHCは第2期運転(Run2)を2018年に終了し、140 ifbのデータを取得した。今後はRun2で取得した全データを用いて新しいトラッキング手法の開発、及び解析手法の改善を進める。このデータ量は前回解析のものと比較しておよそ4倍であり、新粒子探索において大幅な感度の上昇が見込まれる。また、機械学習の導入や、量子コンピュータを含む新しいデバイスの活用など、広い視野でトラッキング手法の改善を図り、新粒子解析への応用に向けて研究を進める。
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