研究実績の概要 |
研究目的は複合媒質における放物型及び楕円型優決定問題の解の幾何学的性質を明らかにすることであった. 研究協力者の R.Magnanini氏(Firenze大学教授)と坂口茂氏(東北大学教授)と共同研究を行い,ある優決定条件を満たす2相熱伝導体の特徴づけができた. 適切な仮定の下で, 不変等熱流面か不変等温面のどちらかを有する2相熱伝導体は同心球に限ることが分かった.この結果を論文 L. Cavallina, R. Magnanini and S. Sakaguchi,“Two-phase heat conductors with a surface of the constant flow property", arXiv:1801.01352v2,学術雑誌に投稿中,の4-6章で示した. 単一媒質について研究されてきた Serrin 型楕円型優決定問題の一般化としての複合媒質に関する2相楕円型優決定問題を考えた. 単一媒質の場合と違って, 2相の場合同心球でない解(非自明解)もまた存在することを上述した論文の1章で示した. さらに, 2相楕円型優決定問題の非自明解の幾何学的性質を調べるため,論文 L.Cavallina and T.Yachimura, “On a two-phase Serrin-type problem and its numerical computation", arXiv:1811.07156, 学術雑誌に投稿中,でKohn-Vogelius汎関数に基づいた数値計算アルゴリズムを提案した. Magnanini教授, 坂口教授及び谷地村氏との共同研究を継続中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単一媒質の場合, Serrin型優決定問題においては肯定的に対称領域に限定されることが多くの研究者によって様々な問題で示された. また, 複合媒質の場合は単一媒質の場合に用いた手法がほとんど適用できないことが知られている. 本研究では, 複合媒質におけるSerrin型優決定問題を考察し, 単一媒質の場合とは異なる方法で, 放物型の場合には肯定的に対称領域に限定されることを証明し, 楕円型の場合には対称性の破壊が起こり得るという新しい知見を得ることに成功している. さらに, 東北大学の谷地村氏との共同研究では, 上述の楕円型優決定問題の非対称解の解析のための数値計算アルゴリズムを提案した. このことを3つの論文(1本は国債学術誌に掲載済み, 2本はarXivに発表するとともに国債学術誌に投稿中)にまとめた. 以上のことから, 当初の計画以上に研究の進展があったと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
複合媒質における楕円型優決定問題の非対称解(非自明解)のより精密な解析を行うことを今後の研究の目的とする. 特に, 非自明解の幾何学的性質を調べることに重点を置いて研究を進める予定である. 具体的に以下の3つの課題に挑戦したいと思う. 1)上述の優決定問題における存在・一意性のための必要・十分条件を調べる. また, Crandall-Rabinowitzの定理を用いて対称性の破壊を伴う分岐現象の解析を行う. 2)複合媒質の介在物の形状は解にどの影響を及ぼしているかを明らかにする. 特に介在物が軸対称・凸・星形領域等の場合を検討する. また, 複合媒質に付随する複数のパラメータによる解の連続性及び漸近挙動を考察する. 3)数値アルゴリズムの結果から, 対称解の摂動解として得られない, 対称解との位相が異なる非自明解もまた存在することが示唆される. このような解の存在を示す.
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