研究課題/領域番号 |
18J11457
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中山 勝政 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 格子QCD / B中間子 / 素粒子論 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)におけるB中間子の崩壊に関する測定において知られている、標準模型と実験との不一致に関する数値的な研究である。この不定性の理解のためには、現状では十分に考慮されていない非摂動的な寄与を理解する必要性がある。研究計画当初、このような研究はなされておらず、現在においても完全な数値計算はされていない。本研究で用いる格子上に場の理論を定式化した上で数値計算を行う手法は、非摂動的な寄与に関してモデルを用いることなく取り入れることのできる手法の一つであり、議論の続いている新物理の可能性について寄与することができる。 以上を背景として、本研究ではB中間子において特にチャーモニウムが寄与する部分に着目して数値計算する。このような寄与は最も非摂動的な寄与が効く可能性が高いものの一つであり、議論のある理論計算において仮定されている近似手法を検証するという目的に適している。そこで、既存の数値計算コードに測定のためのコードを追加で開発し、格子場の理論に基づく数値計算をした。 現在までのところ、数値計算に必要とされるコードを新しく開発した。さらにこのコードを元に実際に計算を行なった上で、因子化近似において無視される寄与に関して研究した。最終的に実験結果と比べられる数値計算を与える以前に、現在の理論予想に用いられている近似が破綻していることを明らかにすれば、より詳細な研究が必要とされることが広く理解される。 数値計算の理論的な側面において、実際にB中間子の崩壊振幅を求めるために必要とされる条件や手法を研究した上で数値計算を行なった結果、因子化近似が比較的非摂動的な寄与が大きくなりうる長距離において破綻している可能性が明らかになった。現在、この可能性をより詳細に吟味するために必要な数値計算を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特別研究員は、高エネルギー加速器研究機構の格子グループとの共同研究として、特にチャーモニウムの寄与するB中間子崩壊に着目して研究を行なった。必要とされるコードを開発し、計算を進めている。 コード開発とともに、将来的に散乱振幅を計算する際に必要とされる条件を明らかにした。数値計算において適切な極限を実現するためには非物理的な発散量を取り除く必要性があることが知られており、特別研究員はB中間子にチャーモニウムが寄与する際に必要な中間状態に対する制限を明らかにした上で、計算を始めた。まず最初の段階として、4点関数と関連する2,3点関数とを計算し、理論的予言に用いられている因子化近似の検証を行なっている。現在のところ、この近似が実際に格子計算の結果破綻している可能性が示唆されている。従来、格子計算を用いて非摂動的な寄与を無視することなくこの破れの可能性を明らかにした研究はなく、最終的には実験結果と理論予想との食い違いにも言及できるものであるため、重要な結果であるといえる。この成果は関連分野最大の国際会議にて報告した。 次年度においては、この結果をさらに吟味し確たるものとするための研究が期待される。まずはより詳細な議論のために繰り込み定数を決める必要性がある。そのためのコードを共同研究者とともに開発中であり、開発次第数値計算をする予定である。また、格子場の理論の定式化そのものに関係する研究にも取り組み、従来の手法と比較し飛躍的に計算精度を上げるなどの成果を上げている。 以上のことから、比較的コード開発に手間がかかったものの、計算に必要な条件や実際に計算結果を得て議論が進んでおり、さらに関連する研究においても成果が得られたため、概ね順調に研究が進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究員はまず第一にくりこみ定数を決定していく。この手法に関して、当初RI-MOMと呼ばれる手法で決定することを想定していたが、研究が進むにつれてモーメント法と呼ばれる手法を利用した方が有用であることが明らかになったため、モーメント法を用いて決定することにした。モーメント法は本研究員が先行研究でチャームクォーク質量を決定する際に2点関数に適用した手法であり、予備的な研究において2点関数のくりこみ定数が決定できることはすでに明らかにしていた。この手法をチャーモニウムの寄与するB中間子崩壊の4点関数に適用することで、対応する関数のくりこみ定数を明らかにする。 くりこみ定数を決定したのち、実際に因子化近似においてくりこみ定数を利用することで、量的にどの程度のズレが存在するかが明らかになる。特にチャーモニウムの寄与する二つの演算子がどのように混合するかを研究していく。 因子化近似における理論と実験とのズレは、従来は摂動計算による見積もりやモデル化による説明などの試みがなされていたが、格子計算を用いて非摂動的な寄与を含めた形では議論がなされていなかった。量的にどの程度のズレが立ち現れるかを明らかにすることで、従来の研究と比較する。 くりこみ定数を決定するためのコード開発と数値計算量は少なくないため、これらの計算が完了した上で上記のような比較が済んで以降になるが、実際に必要とされる崩壊振幅を計算することを試みる。現在までに明らかにした数値計算上の制約を満たしつつ、より現実的な物理量がどの程度の精度で計算できるかを明らかにしていく。
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