研究課題/領域番号 |
18J11502
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
巽 奏 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 脂質分泌 / 二次代謝 / 植物細胞 |
研究実績の概要 |
高等植物はさまざまな脂溶性代謝産物を合成し、その中には細胞外へ分泌されるものも多くある。しかし、その分泌機構の詳細はほとんど解明されていない。本研究では、脂溶性代謝産物の細胞外分泌機構を明らかにすることを目的とし、そのモデルとしてシコニン分泌系を用いる。 シコニンは、薬用植物のムラサキが根の表皮細胞において細胞外に分泌するナフトキノン系の赤色色素である。シコニンは脂溶性が高く、水中では速やかに結晶化することから、細胞質ゾル内では何らかの脂質と共存し膜系に隔離されて輸送されると考えられ、脂質分子の生合成と輸送が大きく関与することが推測された。そこで脂質分析を行ったところ、本細胞においては総TAG生産量の約30%が細胞外に分泌されることが明らかとなった。またトリアシルグリセロール (TAG) の組成に着目したところ、細胞外に分泌されるTAGの大部分が飽和脂肪酸で構成されており、細胞内に貯蔵されるTAGと組成が大きく異なることが示された。さらに、in vitroにおいてシコニンとTAGの一重膜小胞の再構成を行い、作成を行うことで、TAGが実際に膜脂質とともにシコニンを内包することを示した。これらの結果から、TAGがシコニンと共輸送され細胞外に分泌されていることが示唆された。 次いで、脂質分泌を制御する遺伝子の評価を行うことを目的に、高効率で遺伝子を導入できる毛状根作出系を構築した。さらに、ムラサキ毛状根のシコニン生産性に関するクローン間偏差の影響を避け、シコニン分泌に対する遺伝子の寄与をより高精度に評価すべく、グルココルチコイドおよびエストラジオールを用いた発現誘導系である転写誘導ベクターを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は脂質分析を詳細に行うことで、TAGの細胞外分泌について複数の手法により再現性を得ることができた。当初の計画では、遺伝子の機能評価はウイルス誘導性ジーンサイレンシング(VIGS)法を用いて行う予定であったが、VIGSによる遺伝子の発現抑制は一過的であるため、安定的に遺伝子を導入するためにムラサキの毛状根を作出することとした。本来、ムラサキがシコニンを生産、蓄積する部位は根であるために、ホストとしても適切であると考えられる。今年度は上述のムラサキ毛状根への安定形質転換法および誘導発現系を構築したことで、シコニン分泌に関わる遺伝子の機能評価を行うための技術基盤を確立することができた。これらの理由から順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ムラサキの細胞においては細胞外に分泌されるTAGはその脂肪酸組成が異なることが明らかになったことをふまえ、脂肪酸不飽和化酵素に着目して解析を行う予定である。すでにターゲットとする遺伝子の絞り込みは終了し、発現抑制用および過剰発現用のコンストラクトを作成した。現在、上述の遺伝子導入法によりムラサキ毛状根の作出に着手している。順次、シコニンおよびTAGの生産量と分泌量をそれぞれ定量することでシコニン分泌に対する寄与を評価する予定である。
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