植物は自らをとりまく環境に適応し、個々の戦略に基づいて生存するために極めて多様な化学構造を有する天然有機化合物を進化させてきた。これら二次代謝産物が的確にその生理機能を発揮するためには、厳密な時空間的制御が重要であり、決められた組織・細胞に輸送あるいは蓄積されるようプログラムされている。しかし、これら高度に制御された輸送・蓄積の分子機構は未だに不明な点が多い。特に脂溶性物質の蓄積機構は液胞に蓄積する多くの水溶性代謝産物と比して、知見が少ないのが現状である。そこで、本研究では、脂溶性代謝産物の分泌機構を明らかにすることを目的とし、そのモデルとしてシコニン分泌系を用いる。シコニンは薬用植物ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)が根において生合成し、細胞外スペースに分泌・蓄積する脂溶性の赤色色素である。 今年度は、シコニンの生合成反応ステップの少なくとも一部がERで行われることから、シコニン生産が脂質代謝に大きな影響を与えると考えて、ムラサキ培養細胞を用いた詳細な比較リピドーム解析を行った。このリピドーム解析によりシコニン生産による脂質分子の変動を網羅的に捉えることができ、これまでに得られた結果と照らし合わせることで、シコニン生産時における細胞内イベントをさらに深く考察することができた。特に、シコニン生産時にリン脂質の生産量が増加することが示されたことから、シコニンの生産・輸送におけるERの重要性が改めて強く示唆された。上記と並行して、昨年度に構築済みであったムラサキへの遺伝子導入系について、方法論として取りまとめ、学術論文として執筆・投稿した。
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