研究実績の概要 |
Co-Cr系合金はバルーン拡張型冠動脈用ステントとして利用されている。一方で近年、特に屈曲した冠動脈での疲労破壊を伴うステント断裂が報告されるようになり、ステント用合金の疲労特性の改善が求められている。Co-Cr系合金はFCC相とHCP相の相安定性と積層欠陥エネルギーの高低に応じて変形双晶やFCC→HCP変態等の多様な塑性変形様式を示す。近年Fe-Mn-Si系合金において引張圧縮変形下で可逆的に生じるFCC相とHCP相の相変態が低サイクル疲労特性を改善しうること、またFCC→HCP変態が起きる上限の温度 (Md) が室温の直上となる相安定性において長疲労寿命が現れることが報告された。本研究ではCo-Cr系合金が類似の塑性変形様式・結晶構造を有することに着目し、相安定性と積層欠陥エネルギーの制御により低サイクル疲労特性に優れるCo-Cr系合金を開発することを目的とした。 実用ステント用材料Co-20Cr-10Mo-35Ni (wt. %) 合金をモデルとして、Ni-Co置換を行った組成についてCALPHAD法によりMdが室温の直上となる組成を予測し、Co-20Cr-10Mo-(20, 23, 26, 29, 32, 35)Ni合金を作製した。引張破断後の試料についてX線回折測定、組織観察、方位解析を行い塑性変形様式の実験的な確認を行った。x < 32 ではHCP相が、x > 23 では変形双晶が生じ、x = 26, 29 合金ではHCP相と変形双晶の両方が生じること、Mdが室温の直上となり優れた低サイクル疲労特性を示しうることが明らかとなった。これらの合金についてひずみ制御引張圧縮疲労破断試験 (ε = ± 0.01)を行い、x = 26, 29 合金が実用材料である x = 35 合金と比較して2.5倍の低サイクル疲労寿命を有することが明らかとなった。
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