材料中には,点欠陥,粒界,表面などの様々な「欠陥」が含まれている.材料の機能は,原子が規則正しく整列した結晶だけではなく,欠陥における特殊な原子・電子構造の影響を大きく受ける.このような欠陥を材料設計に活用するためには,欠陥の機能を正しく理解する必要がある.原子・電子構造を実験的に解析する手法は種々様々存在するが,欠陥のようにナノ・原子レベルで原子・電子構造を解析する場合には,内殻電子励起分光法が非常に強力である.内殻電子励起分光法は内殻軌道の電子が伝導帯へ励起する際に必要なエネルギーを吸収,またはエネルギー損失として測定する手法であり,測定されたスペクトル(core-lossスペクトル)の形状は伝導帯の形状を反映する.しかしそのスペクトル形状は局所的な原子構造や化学結合により複雑に変化するためスペクトルを解釈する,つまりスペクトルから原子構造や化学結合の情報を抽出するのは非常に難しい.また,実験スペクトルを解釈するには,理論計算から得られたスペクトルと比較することで物質を同定する必要がある. 一方で近年では,装置の発展により非常に優れた時空間分解でcore-lossスペクトルを取得することが可能である.その結果,一度の実験で何千ものスペクトルが取得可能となる.一方でこれらすべてを従来のように理論計算を併用して解釈するのは現実的ではない.そこで本研究では,機械学習を用いることで新しいcore-lossスペクトル解析法の開発に取り組んだ.結果,機械学習を用いて,励起スペクトルの予測,スペクトルからの物性抽出,スペクトル-構造相関性を行うことに成功した.
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