poly (ADP-ribose) polymerase (PARP) 阻害薬のolaparibは、本邦では卵巣がん、乳がんに対する治療に使用されている。さらにこれに続いてrucaparibなどの新しいPARP阻害薬が開発されてきている。標的酵素であるPARPはヒトでは17種類存在することから、阻害薬によってその作用点は異なると考えられる。本研究では、olaparib耐性細胞を樹立し使用することで、PARP阻害薬(olaparib、rucaparib)の作用点および効果規定因子を同定することを目的とした。 申請者が樹立したヒト卵巣がん細胞A2780由来のolaparib耐性細胞3株では、PARP1の発現が欠損していた。また、olaprib耐性細胞は、olaparibに対して耐性を示したが、rucaparibに対しては耐性を示さなかった。A2780細胞にsiRNAを導入してPARP1の発現を低下させると、olaparibの効果は減弱したが、rucaparibの効果は変わらなかった。以上のことから、olaparibの効果はPARP1の発現に依存するが、rucaparibの効果はPARP1の発現と無関係であると結論された。さらにolaparibとrucaparibを処理した際の細胞内代謝をメタボローム解析により比較したところ、rucaparibを処理したA2780細胞では、olaparibを処理したA2780細胞と比較して、lactate、PRPP、IMP、XMPの含量が低下し、glucose-6P、fuructose-6Pの含量が増加していた。このことから、rucaparibはプリン生合成経路および乳酸生合成経路を阻害すると推論した。rucaparibのこれらの阻害作用が、がん細胞に対する増殖抑制効果の一因となっていることを明らかにした。
|