研究課題/領域番号 |
18J11601
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
Gantumur Enkhtuul 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | HRP酵素反応 / チオール自己酸化 / 還元糖 / ヒドロゲル / 細胞培養基材 |
研究実績の概要 |
西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)は、過酸化水素(H2O2)の存在下でフェノール性水酸基間の架橋反応を触媒する酵素である。本酵素反応を用いたヒドロゲル形成に関する従来の報告では、H2O2水溶液を直接添加する手法が多かったが、一時的かつ局所的な高濃度のため酵素自身の失活、または不均一な架橋密度といったデメリットが存在していた。そこで、本研究では酵素自身が有するシステインチオール残基の自己酸化反応とグルコース等の糖存在下での還元反応によってH2O2が系内で徐々に生成され、ヒドロゲルが形成できる新規なヒドロゲル形成法の確立を目的としている。 平成30年度は、本手法へ利用可能な糖の種類としてグルコースに加え、他の還元糖のガラクトースとマンノースもヒドロゲルを形成できることを見出した。これらの糖の種類により、系内でのH2O2生成量、HRP中のチオールの減少量及びゲル化反応の速度が異なることが明らかとなった。三種類の糖により生成されるH2O2の酵素への影響を調べた結果、直接添加する系と比べて徐々に生成されるため酵素自身の活性を抑制しないことを確認した。糖の還元力を調整することで得られるゲルの強度及びミクロ構造を制御可能であることを示した。また、それぞれの糖のヒドロゲル上で細胞を培養したところ、糖の種類に依存せずすべてのヒドロゲル上で細胞が伸展と増殖する様子が見られた。ここで、本ヒドロゲル形成法は細胞に温和であることが確認され、細胞の足場材料として応用可能であることを示した。以上の研究成果を国内学会及び論文にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発したヒドロゲル形成法へ利用可能な糖種類を多様化することにより、提案した反応メカニズムの一般性を実証した。更に、糖の還元力を調整することでヒドロゲルの機械的特性またはミクロ構造を制御可能という特徴を明らかにした。この成果は、「Horseradish Peroxidase-Catalyzed Hydrogelation Consuming Enzyme-Produced Hydrogen Peroxide in the Presence of Reducing Sugars」というタイトルでRSC Soft Matter誌へ記載され、Back coverとしても紹介された。 以上のように、研究の新規性を追求しつつ成果を示したため,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究によって確立したヒドロゲル形成法を3Dバイオプリンティングヘの応用展開が可能かを検討する。本研究の手法は、従来のH2O2水溶液を直接添加する手法と比べ、系内で徐々にH2O2を生成するため細胞により温和なバイオインクとしての応用が期待される。これを実証するために、適切なインク組成を調べ、プリンティングの造形精度・作製した三次元構造物の安定性・三次元構造物内部での細胞生存率及び細胞挙動の面から、本手法の有用性を検証する予定である。
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