研究課題/領域番号 |
18J11610
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
寳川 拓生 鹿児島大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | サトウキビ / 品種 / 多様性 / 混植 |
研究実績の概要 |
本研究は,混植など既存品種から成る品種多様性の有効活用方法を提案し,持続可能なサトウキビ生産に資する技術として評価することを目的として実施している. 沖縄県の発行する統計資料やアンケート調査などにより既存品種の多様性およびその利用の現状を把握し,利活用に関する課題を抽出した.2つの行政区分(鹿児島県と沖縄県)において品種多様性の実態が大きく異なっていた.地域によって数品種への偏重傾向があること,品種選択が難しいこと,苗不足など消極的理由による混植が慢性化していることなど,既存品種群の利用の課題を明らかにした.品種の機能的多様性についてはこれまで定性的評価が中心であったので,サトウキビの葉身形質の解析から草型を定量的に評価する草型指数を考案し,フェノタイピングの方向性を示した.品種普及後の生産能力を長期的に観察し,品種固有の生産能力は衰えていないことを示唆した.品種群が多様化された地域では,単一品種の単植栽培と比較して,株出し栽培を中心に地域全体の生産性を向上させていることが明らかとなった. 様々な形質に注目して品種を選択し,最適な混植品種の組み合わせを試みた.水平葉型と直立葉型品種を混植すると,初期成育時には水平葉型品種が畝間をよく被覆することによって光のロスを軽減し,生育後期では直立葉型品種により群落下層への光透過が良好となった.このような光利用効率の向上により,圃場試験では有効茎数が増加する可能性も示唆された.新植に適した茎重型品種と株出し向き茎数型品種の混植の効果は,混植様式や栽培年度によって異なり,茎数型品種の生育が旺盛な年度で特に混植の好影響が見られた.深根性および浅根性品種の混植では,根は両品種の中間的な分布となり,作土層全体を占有する構造へと変化した.耐倒伏性品種の混植では,耐性品種が支柱あるいは防風の役割を果たし,弱い品種の台風被害が軽減された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は沖縄県の統計資料の解析や主要な生産地での聞き取りなどを行う他,形質の異なる品種の混植試験を圃場で3回,ハウス内で3回実施した.これら栽培試験の結果から,形質の異なる品種を混植することによって可塑性が発揮され,空間や資源利用に関する棲み分けや補償作用といった作業仮説が一部証明された.一方,混植指数が1を超える組み合わせにおいても,単植の場合と比べて生育が良好で収量は高かったものの,それぞれの単植の成績を凌駕することは稀であることも明らかとなった.混植品種の組み合わせについては4組程度しか試験しておらず,品種選択が重要な課題であると位置づけられた.混植に適した品種の選択においては,各品種の形質をデータベース化し,有望な組み合わせを各地で栽培試験を実施すること,さらに,これまで単植用に淘汰されてきた品種・系統を混植用として再検討することが重要であり次年度の課題としたい. 品種選択に重要な草型や伸根性,耐乾性といった品種特性に関し,植物の生育状態をよく反映する光合成特性を用いた指数化を検討しており,光合成研究のメッカである米国のニューメキシコ州立大学を訪ね,Dr. Hansonラボにて測定方法などについて習得し,当課題について議論を行う予定である.また,米国南部のサトウキビ生産地や研究所を訪問し,外観形質や生態的特性の定量評価研究を中心に視察する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2018年10月に沖縄で開催された国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT))育種・分子生物ワークショップにて交流したサトウキビ育種の第1人者であるDr.Phillip Jacksonとは帰国後も密に連絡を取り,豪州視察の機会を得た.タウンズビルのオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO))熱帯科学革新拠点(ATSIP)),一大生産地のバーダキンにあるサトウキビ研究所(SRA)),ブリスベンのクイーンズランド大学を視察し,研究滞在先を検討した.2019年度は琉球大学にて研究を継続するとともに,これら豪州の研究施設にて一部調査を行う予定である.沖縄をはじめとする南西諸島は台風等により群落構造が攪乱する可能性が高いため,まずは植物体が直立し,攪乱が最小限であり,かつ研究設備の整っている上記施設での研究を足掛かりとしたい. 混植品種組み合わせについては,同一の系統を用いて1畝毎および4畝毎に栽植された育種圃場のボーダーなど系統と系統が隣接する畝を調査する予定である.混植の影響として表現型可塑性を定量評価することにより,最適な混植組合せに関するヒントを得たいと考えている。 耐乾性についてはUAVを用いた群落表面温度でのスクリーニング研究が豪州で盛んとなっているが,植物生理学的理解が不足している.現地では本スクリーニング技術を習得するとともに外観形質や実測Ciにより植物生理学的に群落温度を理解し,育種だけでなく灌水制御などへの応用を検討していきたい.クイーンズランド大学では作物成長モデル解析が盛んに研究されており,技術習得して沖縄へ応用することを検討している.
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