本研究では、MEMSにより作製するナノセンサを用いた熱計測技術に、集束イオンビームや電子線、化学的な修飾によるナノスケールの試料の加工技術を組み合わせることで、二次元材料、主にグラフェンにおける熱・電気伝導の構造依存性を調べ、能動的に熱・電気伝導特性を制御することを目的として研究を進めた。 当該年度では、昨年度までの研究を踏まえ、グラフェンを巻いた構造をもつ多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(直径約100 nm)、あるいは多層グラフェンをより合わせた繊維から成る構造をもつカーボンナノファイバー(CNF)(直径約200 nm)であれば、熱計測のために基板から浮いた状態であっても、フッ素と電子線を用いた微細な構造修飾による熱制御ができるのではないかと考えた。 そこでまず、構造修飾手法を確立すべく、MWCNTとCNFをフッ化キセノンガスにさらすことで、フッ化を試みた。しかし、フッ化キセノンガスにさらす前後でラマンスペクトルに変化が見られなかった。ラマンスペクトルに変化が見られなかった理由には、MWCNTやCNFの内部にはフッ素原子が結合しておらず、基本構造であるグラフェンの構造を保持しているからではないかと考えた。 続いて、フッ化キセノンガスにさらした後のMWCNTの構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。既報の文献では、フッ化したMWCNTの外周部はアモルファス化していることがTEM観察によって報告されている。しかし、本研究のMWCNTの外周部には、依然として軸方向に長く続くグラファイトの層が観察されたことから、フッ素原子は結合していないのではないかと考えられる。このことからMWCNTやCNFをフッ化するためには、単層グラフェンをフッ化キセノンガスにさらしてフッ化単層グラフェンを用意したときとは異なる処置が必要だという結論に達した。
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