研究課題/領域番号 |
18J11733
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
VONGPIPATANA TUANGTONG 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | RNA編集 / ADAR1 / 脳形成 |
研究実績の概要 |
アデノシンをイノシンへと置換するRNA編集はADAR1によって触媒され、内在RNAがセンサー分子MDA5によって非自己として認識されることを回避するために必要不可欠である。一方、ADAR1を介したRNA編集については、これまで発生や免疫系で解析されてきたが、ADAR1は脳にも高発現している。しかし、脳におけるADAR1の生物学的意義は不明である。そこで、ADAR1 floxマウスとNestin-Creマウスを交配させ、脳でADAR1を欠損するマウスを樹立したところ、生後2日以内に死亡することが判明した。このため、本研究では、本マウスが致死となる理由を調べ、脳形成時におけるRNA編集の生理的意義を解明することを目的とする。平成30年度は、以下の2つの研究計画を実施した。 「ADAR1欠損によって生じる脳形成異常のメカニズムの解明」: Nestinの発現が必ずしも脳に限局するわけではないことから、より特異的に神経細胞でのみ発現するTau-Creトランスジェニックマウスとの交配を実施した。その結果、やはり生後2日以内に死亡したため、脳発生にADAR1が必要不可欠であると結論付けた。次に、これらのマウスの脳について、HE染色などにて、解剖学的異常の有無を解析した。加えて、炎症、細胞死、分化、増殖マーカーについて免疫染色を実施したが、明確な異常を掴むことはできなかった。 「脳におけるADAR1の機能とMDA5経路の関与についての検証」: 致死の理由がMDA5の活性化によるものかどうかを検証するため、MDA5との2重欠損マウスを作製した。その結果、本マウスにおいても生後間もなく致死となることが判明し、MDA5を介さない経路が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、ADAR1 floxマウスとNestin-Cre Tgマウスを交配し、脳特異的にADAR1を欠損させたマウスを作製しところ、生後2日以内に死亡するとの結果を予備的に得ていた。しかし、Nestinの発現が必ずしも脳に限局するわけではないことから、より特異的に神経細胞でのみADAR1を欠損させることとした。このため、平成30年度は、より特異的に神経細胞でのみ発現するTau-Creトランスジェニックマウスとも交配し、やはり生後2日以内に死亡することを明らかにした。一方、MDA5との2重欠損マウスでは致死はレスキューされなかったことから、MDA5を介さない新規経路が関与している可能性を示すことができた。マウスの交配に時間を要しているが、概ね予定通り進捗しており、今後の展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ADAR1が脳発生に必須であることは示すことができたが、解剖学的な明らかな異常や炎症像を掴むことはできなかった。このため、現在、脳組織・解剖の専門家に相談しながら、微細な異常を見出す努力をしている。今後は、シナプスなどの機能異常の有無についても解析を進める予定である。また、MDA5との2重欠損マウスを作成したところ、予想に反して、致死の理由がMDA5の活性化によるものではないことが判明した。このため、RNA編集活性を失ったADAR1点変異型ノックインマウスとの交配により、MDA5に依存しないこの新たな経路にRNA編集活性が必要不可欠であるかどうかを解析する予定である。
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