最終年度である本年度は,昨年度までに行った実験の結果を整理し,セミナー・学会などを通じてコメントをもらいながら分析を進めた.本年度の追加分析の特徴は,リスクの大きさの時間的順序に注目しi)「安全な報酬がすぐ手に入る」場合とii)「安全な報酬が待たないと手に入らない」場合を区別した点である.区別した結果,時間非整合的な選択が観察できるのはほとんどi)のケースに限ることなどが明らかになった. 現実の意思決定環境では,例えば投資家が利益確定を考えるときには,利益を確定させるという「近い未来の」安全な選択肢と,確定しないという「遠い未来」のリスキーな選択肢がある.これはi)と解釈できる.逆に,定期預金や年金による運用を考えれば,投資家には市場で運用するという近い未来に実現するリスクが高い選択肢と,預金という遠い未来に実現する安全な選択肢がある.すなわちii)に対応すると解釈できる.このように,i)とii)はそれぞれ多様な現実の意思決定に対応していると考えることができる.上述の追加分析の結果は,例えば将来のために定期預金を積み立てるような意思決定(すなわちii)では時間非整合的選択が起きにくいことを示唆する.加えて,追加分析から ・i)とii)の意思決定で選好の推移性が満たされないケースがあること(プレ実験:Within) ・i)とii)のトリートメント間で数的認知度テスト(CRT)のスコアが有意に異なること(本実験:Between) なども分かった.これらはi)とii)の場合で個人が異なる意思決定プロセスを用いている可能性を示唆している.現在,昨年度の結果と合わせて成果をまとめたDPを現在執筆中である.
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