研究課題/領域番号 |
18J11973
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 拓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | セレン化カドミウム / マジックサイズクラスター / システイン / 固体核磁気共鳴分光法 |
研究実績の概要 |
有機分子を保護基として溶媒中で合成されるCdSeマジックサイズクラスターは、半導体としての物性を生かした応用研究が行われている。しかし、単結晶が得られず単結晶X線解析を行うことができないため、その構造はいまだ明らかでない。量子化学計算では真空中の保護基がない状態の構造が予測されているが、構造の安定性や物性には保護基の存在が大きく関与するため、CdSeマジックサイズクラスターの研究の更なる発展のためには保護基まで含めた構造を解明することが重要となる。そこで、単結晶を用いずともナノメートルオーダーの構造を解析できる固体NMR法を用いて、システインに保護されたCdSeマジックサイズクラスターの保護基まで含めた構造を実験的に決定することを目指した。 本年度は、本研究のために作製した113Cd-77Se共鳴固体NMRプローブを用いて2次元相関実験を行い、クラスターを構成するサイトの種別および相対配置を特定する予定であった。しかしながら、113Cd、77SeともにNMR信号の幅の広さや緩和の影響で測定の感度が非常に低く、多数のスペクトルの取得が必要な2次元測定を計画通りに進めることができなかった。 クラスター本体の構造解析が当初の予定通りには進まなかった一方で、クラスターを保護するシステインが分子運動を行っていることを見出し、重水素NMR法によってその運動の速度やモード、活性化エネルギーを詳細に明らかにすることができた。金属クラスターでは近年、保護基の分子運動が発光効率の低下を引き起こすことが注目され始めているが、一方、発光の研究が盛んであるCdSeをはじめとする半導体クラスターでは、発光と分子運動の相関に着目した研究は報告されていない。本研究で明らかになったCdSeマジックサイズクラスター表面における保護基の運動の存在は、発光の研究における重要な情報になりうると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた2次元相関NMR測定によるCdSeクラスターの構造解析について、実際に行ってみたところNMR信号の感度の低さから非常に測定時間がかかり困難であることが判明した。そのためクラスター本体に対する構造解析は思うように進めることができなかった。 一方で本年度は、保護基のシステインの構造を詳細に決定することができた。システインがどのような構造で配位するかという情報は、CdSeクラスターの表面構造や安定化の機構を探るうえで重要な情報となる。特にシステインがCdSe表面で運動していることを明らかにした結果は、CdSeクラスターの発光強度に保護基の運動が影響している可能性に加え、クラスター表面が保護基が自由に運動できるような原子配置であることを示唆しており、クラスターの表面構造に関する情報を与える重要なものである。このように、システインの構造を明らかにできたことでクラスター本体の構造に関する非常に有益な知見を得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
クラスター本体の構造解析に必須である2次元NMR測定を進めるためには、NMR信号の感度を上げることが必要である。そこで、電子スピンの高偏極を利用して核スピンの信号を増大させるDNP法を利用する。DNP法がシステインに保護されたCdSeマジックサイズクラスターに適用可能であることはすでに予備実験によって確認済みであり、うまく条件を調整することで数十倍の信号強度増強を達成できている。このDNP法を用いることで、当初予定していた様々な2次元測定を非常に効率よく進めることができると期待される。
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