研究課題
本研究員は、これまで哺乳動物に必須とされる乳腺組織において母乳の合成が盛んとなる授乳期に細菌叢が形成されることを平成30年度に明らかとしてきた。近年、ヒトやウシの臨床研究において乳汁中に多種の微生物が検出され、それらは仔の腸管へ移行することが報告されている。また、腸管粘膜面の微生物は腸管関連リンパ組織に取り込まれることで免疫グロブリンA(IgA)の誘導抗原として機能することが知られている。しかしながら、母体から乳汁を介して供給される微生物が仔自身の腸管免疫系の構築に関与するのか、その特徴は未だ明らかとされていない。そこで、令和1年度は幼若期の仔の腸内における母体由来微生物の役割を明らかにすべく、腸管関連リンパ組織の一つであるパイエル板に着目し、母体の乳腺組織由来微生物の存在を調査した。その結果、仔のパイエル板では哺乳期から多種の微生物の取込みが確認され、その一部の菌は母体の乳腺組織内にも存在する微生物種であることが明らかとなった。さらに、哺乳期に取り込まれる微生物の重要性を明らかにすべく、哺乳期間を無菌またはSPF環境で飼育したマウスの腸内IgA産生を比較した結果、哺乳期を無菌環境で飼育したマウスでは仔の腸内IgA産生が損なわれることが解かった。このことから、哺乳期に仔のパイエル板へ取り込まれる微生物は、正常な腸内IgA産生の開始に必須であり、抗原となる微生物の一部は母体の乳腺組織が供給源であることが示唆された。故に、仔の健全な育成を誘導するためには哺乳期の母体の微生物環境を良好な状態に維持することが重要であることが示された。このような知見は、国内の農学および医学系学会にて公表し、高い評価を得た。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology
巻: 10 ページ: 83-100
10.1016/j.jcmgh.2020.01.011