研究課題
免疫細胞の分化・活性化には細胞内代謝の変容が必須であることが近年明らかとなり、「免疫代謝」として注目されている。代謝・栄養センサーであるmTORは免疫代謝の中心的役割を担うが、mTOR下流シグナルの詳細については不明な点が多い。申請者は抑制性マクロファージ分化におけるmTOR下流シグナルの探索を目的として解析を行い、mTORシグナル依存性に神経ガイダンス因子であるセマフォリン6D(Sema6D)が発現誘導されること、Sema6DがPPARγの発現を誘導し細胞内脂質代謝を亢進させること、mTOR-Sema6D-PPARγシグナルが抑制性マクロファージ分化を促進し、腸炎抑制に寄与することを明らかにした(Nat Immunol. 2018)。この研究成果をもとにSema6Dを介した代謝制御および慢性炎症制御機構の解明を目指し、さらなる解析を行った。高脂肪食負荷Sema6D欠損マウスは、体重増加や脂肪肝の形成に抵抗性を示す一方で、末梢血において好中球や単球などのミエロイド系細胞の著明な増加を認めた。骨髄キメラマウスを用いて同モデルを行ったところ、非血球系細胞のSema6Dシグナルが慢性炎症抑制作用を持つことが明らかとなった。さらに、慢性炎症抑制に寄与する非血球系のSema6Dシグナル探索を行った。Sema6Dは神経伸長の反発因子であること、骨髄内の交感神経分布異常によって造血機能に変化が生じることから、Sema6D欠損マウスの骨髄内交感神経分布を検討した。その結果、Sema6D欠損マウスの骨髄では交感神経線維の増加を認めた。すなわちSema6Dシグナルが骨髄内の交感神経分布を制御することが明らかとなった。以上の結果から、Sema6D欠損マウスでは、骨髄内への交感神経分布が増加することによって、ミエロイド系の造血が亢進し、慢性炎症増悪に寄与している可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
Sema6Dによる細胞レベルでの免疫代謝制御機構を明らかにし、論文化した。全身代謝の制御と炎症応答を解析する過程で、当初は上記論文と同様の制御機構を想定し、脂肪組織のマクロファージを中心として解析を進めたが、予想外に非血球系細胞におけるSema6Dシグナルを介した代謝・造血制御機構の存在を発見した。さらに、骨髄内交感神経分布との関係を示唆する結果も得ている。これらの結果をもとに、「免疫細胞においてSema6Dが細胞内代謝と免疫応答を制御する」という当初の仮説を「Sema6Dが神経系・免疫系・代謝系を包括的に制御する」という仮説へ大きく拡張するに至った。
これまで高脂肪食負荷Sema6D欠損マウスが体重増加や脂肪肝の形成に抵抗性を示す一方で、造血異常を呈すること、さらには非血球系のSema6D欠損がこれらの表現型の原因であること、Sema6D欠損マウスにおいて骨髄内交感神経分布亢進を認めることを見出した。これらの知見をもとに、Sema6Dによる骨髄ニッチ制御および慢性炎症制御機構の解明を目指す。具体的にはSema6Dの結合相手であるPlexin-A4が上記表現系に関与するかをPlexin-A4欠損マウスを用いて解析すると同時に、アドレナリン受容体欠損マウスを用いて交感神経シグナルと代謝・造血異常の関係を検討する。また、Sema6Dコンディショナルノックアウトマウスを作製し、骨髄内Sema6Dシグナルの責任細胞群を同定する。
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Nature Immunology
巻: 19 ページ: 561-570
10.1038/s41590-018-0108-0
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/20180524-1200.htm