研究課題/領域番号 |
18J12129
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 将道 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | グリコシル化反応 / メソジオール / 位置選択的 / 立体選択的 / 非対称化 / 1,2-cis-グリコシド / ボロン酸 / 1,2-アンヒドロ糖 |
研究実績の概要 |
本年度は、ボロン酸触媒を用いたメソジオールに対する非対称化型1,2-cis-グリコシル化反応の開発を目的として研究を行った。すなわち、1,2-アンヒドロ糖とボロン酸触媒を用いて、様々なメソジオールに対するグリコシル化反応の検討を行い、位置及び立体選択的に1,2-cis-グリコシドが得られる反応条件の探索を行った。その結果、メソジオールであるmyo-イノシトール誘導体に対して、高い位置及び立体選択性でグリコシル化反応が進行することを見出した。さらに、本反応は多様なメソジオール及び1,2-アンヒドロ糖に応用可能であることを見出した。また、興味深いことに、2位の立体化学がRのドナーを用いた場合、6位水酸基選択的に、2位の立体化学がSのドナーを用いた場合、4位水酸基選択的に1,2-cis-グリコシル化反応が進行することを見出した。本反応は、位置及び立体選択性を完全に制御したメソジオールに対するグリコシル化反応として、初めての例である。 天然には、メソ化合物に配糖化された生物活性分子が数多く存在するが、グリコシル化反応の位置選択性の制御の困難さから、それらの合成は多工程を要していた。しかし本反応は、メソジオールに対して完全な位置選択性でグリコシル化可能であり、これらの効率的合成法への応用が期待される。 また、本反応は、1,2-アンヒドロ糖のキラリティーが完全にメソジオールに転写されることで、非常に高い位置選択性を発現している。したがって、今後、DFT計算による遷移状態の解析を行い、このキラル転写の詳細な機構を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画として、2018年度は、ボロン酸触媒を用いた位置及び立体選択的グリコシル化反応によるメソジオールの非対称化法を開発し、多様なメソジオールや1,2-アンヒドロ糖に応用可能な手法を確立することを目的としていた。まず、1,2-アンヒドログルコースをドナー、myo-イノシトール誘導体をメソジオールアクセプターとして選択し、ボロン酸触媒を用いてグリコシル化反応の検討を行った結果、完全な位置及び立体選択性でa(1,6)-グルコシドが得られることを見出した。また、本グリコシル化反応を、保護基の異なるいくつかのメソジオールに応用した結果、同様に完全な位置及び立体選択性で配糖体が得られることを見出した。さらに、本グリコシル化反応を、多様な1,2-アンヒドロ糖に応用した結果、1,2-アンヒドロ-D-ガラクトース及びl-ラムノースを用いた場合は6位水酸基選択的、1,2-アンヒドロ-D-マンノース及びl-フコースを用いた場合は4位水酸基選択的に1,2-cis-グリコシル化反応が進行することを見出した。現在、DFT計算による本反応の反応機構解析や本反応を利用したカナマイシン類の全合成研究に着手している。計画時点において、ここまでの内容を1年間で行う計画としていたため、本研究は計画通りに進めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本反応の非常に高い位置選択性の発現要因を明らかにするため、DFT計算を用いた本反応の反応機構解析を行う。具体的には、本反応の遷移状態をDFT計算により探索し、得られた遷移状態の活性化エネルギーの比較を行い、各遷移状態の構造と活性化エネルギーの関係について議論する。 また、研究実施計画として示したように、本グリコシル化反応を利用したカナマイシン類の全合成を行う。具体的には、メソジオールとして2-デオキシストレプタミン誘導体を合成し、本手法による非対称化型グリコシル化反応の検討を行う。その後、カナマイシン類の合成に用いるドナーを用いて、2-デオキシストレプタミンに対する本グリコシル化反応を検討し、得られた配糖体から数工程を経て、カナマイシン類の合成を達成する予定である。さらに、耐性菌に対しても有効な新規誘導体の創製を目的として、本合成手法を用いて、今まで利用されていない新規誘導体を系統的に合成し、活性評価を行う予定である。
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