最尤推定問題は数学的にも工学的にも広く関心を集めている問題である。さらにEMアルゴリズムは最尤推定問題に対する一般的な数値アルゴリズムであり、広く利用されている。量子力学的な拡張を考えることで、「量子アニーリングEMアルゴリズム」を構築した。具体的には、クラスタリングに使われる混合ガウス分布に量子力学的に非可換な項を加えることで、EMアルゴリズムの更新式を量子力学的に拡張した。さらに数値計算を用いて、提案アルゴリズムの有効性を確認した。この研究では、量子力学のフレームワークと最尤推定法のフレームワークの対応関係を明らかにすることが重要であったが、統計力学におけるカノニカル分布を使い、最尤推定問題を量子力学のフレームワークに書き直すことでこの問題を解決した。 アルゴリズムを提案する場合、その漸近的な安定性は極めて重要である。申請者は、統計力学の自由エネルギーをリャプノフ関数として定義し、リャプノフの定理を用いて、提案アルゴリズムの安定性を示した。この定理によって、アルゴリズムは安定に大域的最適解あるいは、局所的最適解に漸近することが示された。 また、変分ベイズ法を量子力学的な拡張を考えることで、「量子アニーリング変分ベイズ法」を構築した。アルゴリズムの構成方法は(1)で用いた方法論に基づくものであるが、変分ベイズ法では、EMアルゴリズムとは異なる評価関数を最適化することと事前分布という概念があることの2点が、EMアルゴリズムの研究と本質的に異なる。数値計算を用いて、提案アルゴリズムの有効性を確認した。
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