研究課題/領域番号 |
18J12179
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
ウ コウ 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 抗酸化薬剤 / 放射線防護 / DNA損傷の初期過程 / 鎖切断と塩基損傷 / 放射線作用 / 化学回復 / ラジカル捕捉 |
研究実績の概要 |
本課題は、放射線の間接作用及び直接作用に対する防護効果を調べ、抗酸化剤が放射線防護効果を発揮するメカニズムのうち特に短時間領域における放射線防護機序を解明することを目的としている。今年度中には、十分な時間経過の後に安定な分子構造変異として顕れたDNA損傷に着目し、放射線がDNAに誘発する損傷から微量添加剤の影響を検討してきた。大腸菌からDNAを抽出する際に混入あるいは残存してしまう有機分子は酸化性ラジカルとの反応性が高く、微量の添加剤による効果を見るために、DNA試料の溶媒を透析した。放射線の間接作用及び直接作用を確認のために、DNA一分子に対する水分子の量を調整して実験を行った。また、修復酵素を用いることで、基質特異性に応じたDNAを鎖切断に変換し、塩基部位の損傷も検出してみた。 X線照射で誘発されるDNA損傷の収率(mol/J)を調べた。どの条件でも吸収線量の増加に伴って健全なDNA割合が減っており、損傷が誘発されていることが確認できた。DNA分子あたりに水分子の数が少ないと、損傷収率が低いことが確認でき、それは水の放射線分解で生じるOHラジカルの量から解釈できる。DNAの溶媒を保存によく用いられる緩衝液であるTEにすると、X照射で誘発されるDNA損傷の収率は大幅に低減されていたことが分かった。更に、修復酵素による塩基部位の損傷を識別することで、誘発されたDNAの一本鎖切断と塩基損傷がほぼ同程度で生成されることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定としたフィルム状DNAの作成とその照射方法の確立、DNA近傍の不純物の除去、重粒子線照射のための実験準備、修復酵素を用いた基質特異性に対応する損傷の検出など、ほぼ予定通りに進展してきた。また、実験手法や初期の実験結果も適宜発信していた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目はフィルムのDNA試料を中心に、水分量を変え、損傷タイプごとに収率が水分量にどう依存するかを調べるほか、微量添加剤により、損傷収率を低下させやすい損傷タイプがあるかについて明らかにしていく。添加する薬剤としては代表的な抗酸化剤アスコルビン酸やフラボノイドを予定している。なお、順調に進んだ場合には、X線照射の他に重粒子線も量研機構・放医研の HIMAC 施設で照射し、高密度な初期損傷が生成した状態でも、抗酸化剤の防護効果が十分機能し得るかを調べたい。
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