実空間および逆空間観察によるナノスケール磁気テクスチャの磁化分布や形成機構の解明を目指して研究を行った。これまで、既存の実空間定性手法に加え、逆空間観察手法として小角電子回折に注目し、これらを組み合わせることで遷移金属磁性体の磁気テクスチャを調べてきた。透過型電子顕微鏡を用いた実空間および逆空間観察によって、マンガン酸化物中に形成される磁気テクスチャの形成機構についての知見をまとめ、学術雑誌(Journal of Magnetism and Magnetic Materials)に投稿した。 さらに、現在広く用いられているローレンツ顕微鏡法と比較し、より定量的な実空間観察手法として、位相差顕微鏡法を用いた磁性観察手法の開発に着手した。National Research Centre(カナダ)のDr. M.Malacとの共同研究により、無孔位相板を用いることで、FeGeの磁気スキルミオンの位相差顕微鏡像の取得および磁化分布の再生に成功した。こうした成果は論文(AIP Advances)にまとめられ、掲載された。開発手法をヘキサフェライトの磁気バブル観察に応用し、その研究成果をまとめた論文はJournal of Applied Physicsに投稿中である。以上のように、本年度では、逆空間の定量解析手法である小角電子回折の真価を発揮させるため、新たな実空間の磁性観察手法を確立させた。こうした研究成果は、今後磁気デバイスへの応用が期待されているナノスケール磁気テクスチャを理解していく上で、非常に有用な解析手法を示すものである。
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