研究課題/領域番号 |
18J12197
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守谷 哲 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 神経回路モデル / ニューラルネットワーク / 脳型計算 / ネットワーク / シミュレーション / 脳型コンピュータ |
研究実績の概要 |
脳型情報処理の解明に向け,構造を制御した培養神経回路と,そこで発現する時空間ダイナミクスを定量的に結び付けるためのシミューションモデルを構築し,ネットワーク構造とダイナミクスの関係を明らかにすることを試みた.ネットワーク構造として特に,モジュール構造という脳で普遍的にみられる構造に注目した.モジュール構造は,ネットワークの一部分が密に結合してモジュールを形成し,それらのモジュールが疎に結合している構造である.モジュール間を結ぶ結合の本数を制御することによりネットワークのモジュール化の度合いを制御しながら,ネットワークダイナミクスがどのように変化するかを調べた.モジュール化の度合いが中程度のネットワークにおいて,ネットワーク全体の同期した活動とモジュールごとの同期的な活動が入り混じった複雑なダイナミクスが観測された.この結果は,適切なモジュール化の度合いを有する神経回路が,脳内における情報処理の分離と統合に寄与していることを示唆している.またネットワークの構成要素と大域的な構造の関係を明らかにすることを目的に,細胞数,モジュール数,結合数,ネットワーク全体に対するモジュール内の結合本数比の4つのパラメータから,ネットワーク構造の評価指標であるモジュール性やスモールワールド性などを求める式を導出した.この結果により,培養神経回路や脳神経回路のネットワーク構造から計算される構造評価指標と解析解との比較から,単純な構造を持つモジュラーネットワークと実神経ネットワークがどの程度類似しているかを検証する手法を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画通りに,神経回路に発現する時空間ダイナミクスを情報処理へ応用する方法を検討するため,神経回路のモジュール構造に重点を置きながら,結合の粗密や興奮性神経細胞と抑制性神経細胞のバランスなどを調整しネットワークを構築した.ネットワークに発現する時空間ダイナミクスは,同期発火周波数,相関係数,functional complexityなどの指標から評価及び解析が行われ,モジュール構造がネットワークに複雑な時空間ダイナミクスを発現させ得ることを明らかにした. また当初計画していた,リザバーコンピューティングという枠組みを用いて神経回路の時空間ダイナミクスを用いた入力時系列の弁別を行うという課題に取り組む前段階として,モジュール構造とネットワークの細胞数などの基本的な構成要素からネットワークの大域的な構造を求める式の導出を行った.これにより神経回路構造とネットワークの有する計算性能を結びつけるための評価基盤が整った.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,得られたネットワーク構造とダイナミクスに関する知見を基にして,時空間ダイナミクスを用いて情報処理を行う神経回路モデルを提案し,シミュレーションによって性能を評価する.リザバーコンピューティングの枠組みを用いて,神経回路の時空間ダイナミクスから入力時系列の推定と分類を行う.特に,ネットワークのモジュール化の度合いやダイナミクスの複雑性が,リザバーコンピューティングの性能にどのように影響を及ぼすかを評価し,ネットワークの構造・ダイナミクス・計算性能の関係を明らかにする.また,神経回路情報処理の効率性やロバスト性などについても考察する.得られた結果を基にして,時空間ダイナミクスを用いた情報処理を行う神経回路モデルとアナログメモリを組み合わせたアナログニューラルネットワークを実現するためのハードウェア構成を提案する.ハードウェアリソース及び消費電力を現行の脳型ハードウェアと比較することで,提案ハードウェアの優位性を評価する.
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