本年度は、高分子ブレンドが成形加工時の流動場において示す構造変化に着目し、表面機能の向上、成形性の向上を目的とした以下の研究を行った。 1. ポリカーボネート/ポリメタクリル酸メチルブレンドが成形加工時に示す構造変化とその応用 成形温度でも相溶なPC/低分子量ポリメタクリル酸メチル (L-PMMA) を射出成形し、相溶系高分子ブレンドの流動場での構造形成について検討した。成形体の表面近傍の組成を調べたところ、低分子量成分であるL-PMMAが表面に偏析していることが確認された。PMMAは表面硬度に優れる高分子材料であるため、成形体表面に偏析することでPCの弱点である耐傷性を改善できると期待される。本手法は、積層やコーティングといった後加工を必要とせず、成形加工行程中に表面改質が可能であることから、工業的な利用価値が高いと期待される。 2. ポリスチレン添加によるポリカーボネートの流動性向上と流動時における構造変化 PCのもう一つの欠点として射出成形時の流動性の低さが挙げられる。本研究では、汎用的な透明高分子材料であるポリスチレン (PS) を添加することで、PCの流動性が大幅に向上することを見出した。一般的にPSとPCは静置場では非相溶であり、可塑剤として作用するとは考えられない。しかしながら、毛管粘度計や円錐-円板レオメータを用いて流動測定を行うと、特に高せん断速度域で顕著な粘度低下が観測された。PSの屈折率がPCとほぼ同じであるため、ブレンド試料は相分離構造を示すにも関わらず、透明性にほとんど影響を及ぼさない。このため、透明性が必要な部材にも適用可能である。粘度低下が高せん断速度側で顕著となることから射出成形時の流動性向上に適すると考えられ、PCの生産性向上に有効な手法として今後の応用が期待される。
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