研究課題/領域番号 |
18J12343
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
柴田 慶一郎 香川大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 廃棄魚骨 / ヒドロキシアパタイト / もみ殻 / 吸着材 / 重金属 / 放射性物質 |
研究実績の概要 |
本研究は,3つの目的で構成されている.第一に,魚骨由来のヒドロキシアパタイト(以降FbA(Fishbone Absorber))がどのような物質,特に環境中で有害とされる物質に対して高い吸着特性を持つのかを実験的検討により明らかにすること,第二に,分子動力学シミュレーションを用いた数値解析によって吸着構造・メカニズム等を明らかにすること,第三に,他の吸着材料,あるいは他の吸着材料とのハイブリッドの可能性を検討し,吸着性能について検証を行うことである.第1年度目では,主に第一の目的と第三の目的を達成するために研究を遂行した.重金属に対する吸着特性を,FbAと新たな吸着材料として選択したもみ殻のそれぞれに対して実験により明らかにし,その成果を国際学会でポスター発表した後に,Journal に投稿した.現在は,重金属以外の有害物質に対する吸着特性の解明と,両材料をベースにした新規のハイブリッド材料を開発中である.また,本研究では,セシウム,ストロンチウムのような放射性物質の環境中からの除去もあわせて行っており,森林斜面の表土に沈着したセシウム,あるいはフレコンバッグに封入されたセシウムを含む汚染土壌に対する除去・回収手法を提案した.森林斜面の汚染土壌に対しては,傾斜を利用して流水によってセシウムを除去した上で,回収した汚染水に含まれるセシウムをゼオライトによって吸着した.フレコンバッグ中の汚染土壌に対しては,電気泳動とゼオライトを組み合わせることで土壌中のセシウム濃度を低減した.これらの成果は,前者に対しては国際学会でポスター発表後,Journalへ投稿し,後者については国内学会で口頭発表を行った.フレコンバッグ中の汚染土壌からのセシウム抽出と吸着に関する研究については,研究内容とプレゼンテーションのクオリティが認められ,地盤工学会より優秀論文発表者賞を頂戴した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度目では, FbAが環境中で有害とされる物質に対して高い吸着特性を持つか否かを実験的検討により行った.また,本研究では,廃棄物の再資源化も目的の一つとしており,FbAに加えて大量廃棄されるもみ殻を吸着材として再資源化できるか否かを検討した.研究計画に基づき,重金属に対する吸着実験を実施し,両材料の実験結果を比較した.実験の結果,両材料の吸着能は類似しており,2価の陽イオンを吸着しやすく,六価クロムとヒ素はほとんど吸着しなかった.そこで,六価クロムおよびヒ素に対する吸着性能の向上を目的として,FbAともみ殻を軸とした材料開発に着手した.現在,両材料と水酸化鉄を水熱合成することによって新規性のある吸着材料を開発し,それぞれの吸着性能について振とう実験にて検証を行っている.この成果については第2年度で学会誌に投稿予定である. また,FbAについては重金属のみならず,アンモニアに対する吸着特性も検証した.市販のエアレーション装置を用いて,吸着性能について活性炭と比較し,淡水・塩水の両環境において,性能が維持できるか否かを検討した.現段階で,淡水環境で,活性炭よりも優れた吸着性能を示した. さらに,既往研究にてもみ殻灰がセシウムに対して吸着能を有していることが明らかになっており,この特性を利用して,セシウムを含む土壌からのセシウム抽出ともみ殻による吸着を試みた.フレコンバッグに封入された汚染土壌を想定し,電気泳動と吸着材を組み合わせた実験を実施した.電気泳動の有用性を検討するために,セシウムの吸着材として一般的なゼオライトを用いて電気泳動実験を行った結果,汚染土壌から20%程度のセシウムを抽出し,その内の半分以上が吸着された.現在,もみ殻を用いて同実験を実施しており,ゼオライト同様の性能を示した.それらの成果は,学会誌に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として,FbA,あるいはFbP(FbAを粉末化したもの)における吸着材としての能力を精査することを主眼に,室内実験と数値シミュレーションの2つのアプローチにより検討を行う.第一に,FbAあるいはFbPの吸着効果が低かった物質に対しては,他の吸着材料の模索,あるいはその吸着材料とFbA,FbPとのハイブリッド材の開発を行う.研究成果にて述べた通り,FbAやFbPは2価の陽イオンやアンモニアに対しては活性炭などと比較しても高い吸着効果を持つことが明らかになった.一方で,六価クロムとヒ素に対しては十分な吸着効果を示さなかった.そこで,その両物質に対して新規材料,あるいはハイブリッド材を用いて吸着実験を行うことを考えている.吸着実験はカラム試験と振とう試験を採用して平衡吸着濃度と吸着量を調査した上で,それらの値を基に吸着等温線を作成する.また,新規材料やハイブリッド材の物理的特性を把握するためにBET法による比表面積や細孔分布の測定,XRDやSEM-EDXによる元素分析を行う.六価クロムとヒ素に対して十分な吸着効果を持つ吸着材料が得られるまでそれらの作業を繰り返し実施する.第二に,吸着できない物質に対してその原因を解明するために,分子動力学を用いた数値シミュレーションを行い,実験結果との比較を通して原因解明を図る.分子動力学では,原子間の相互作用の計算を行い得られた原子の動きから,統計熱力学をベースに様々な数値解析を行い,実現象のメカニズムの解明や予測を行うことが可能であることから,吸着材料の構造内での各物質の動きをシミュレーションし,かつ,実験で得られた知見と統合して吸着構造を明らかにする.吸着材料の開発が完了し,吸着メカニズム等が明らかになった暁には,実際の汚染水や汚染土に適用することを念頭に,FbAやFbP等を軸にしたハイブリッド材を用いた吸着シートの開発を行う.
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