研究課題/領域番号 |
18J12369
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
北原 一利 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | フッ素化合物 / 不斉合成 / カルボン酸 / 脱炭酸反応 / 塩素化合物 |
研究実績の概要 |
フッ素原子を生物活性物質に導入することで母化合物の機能が向上する例が多く知られていることから、含フッ素有機化合物は医薬品化学において重要であり、効率的な合成方法の開発が望まれている。最近筆者らは、独自に開発したキラル一級アミン触媒を用いてβ-ケトカルボン酸の脱炭酸的塩素化反応を行うことで目的とする塩素化合物が最高98%eeという高い立体選択性で得られることを見出している。当該年度は本塩素化反応を利用したα-フルオロケトン類の合成法の開発を行った。具体的には、α-フルオロ-β-ケトカルボン酸を反応基質とした脱炭酸的塩素化反応によってα-クロロ-α-フルオロケトンを合成する手法を開発した。キラルアミン触媒を用いた不斉反応への応用も行い、光学活性なα-クロロ-α-フルオロケトンを高い光学純度で合成することに成功した(最高95%収率、90%ee)。また、α-ブロモ-β-ケトカルボン酸を反応基質とすることで、対応するα-ブロモ-α-クロロケトンが最高90%eeで得られることも明らかとした。得られたα-クロロ-α-フルオロケトンは塩素原子を脱離基とした求核置換反応により、光学純度を維持したまま様々なフッ素化合物へと誘導化できる。また、α-クロロ-α-フルオロケトンを塩基性条件下で処理することでα-フルオロエノンに変換できることを見出した(最高86%収率)。さらに、求電子的なフッ素化剤を用いたβ-ケトカルボン酸の脱炭酸的フッ素化反応により、第三級フルオロケトンを高収率で合成する手法も見出した。いずれの反応も比較的広い基質適用範囲を示すことから、フッ素系医薬品の開発に資すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
査読付き学術論文2報を発表しており、さらに現在1報を執筆中であることから研究がおおむね順調に進展していると評価した。今年度はまず、含フッ素化合物の有用な合成中間体として機能するα-クロロ-α-フルオロケトンをα-フルオロ-β-ケトカルボン酸の脱炭酸的塩素化反応により合成した。本化合物の合成法を種々検討したところ、カルボニル基のα’位に水素原子を有する環状や鎖状のアルキルケトンであっても最高98%収率という高い収率で目的のα-クロロ-α-フルオロケトンが得られることを見出している。また、得られたα-クロロ-α-フルオロケトンは容易にフルオロエノンへと変換できることも確認している。加えて、本手法をキラルアミン触媒を用いた不斉合成へと応用した。その結果、当研究室で以前に開発したキラル一級アミン触媒を用いた際に目的とするα-クロロ-α-フルオロケトンが最高95%収率、最高90%eeで得られることを見出している。加えて、本手法をα-ブロモ-β-ケトカルボン酸に応用した場合には対応するα-ブロモ-α-クロロケトンが最高98%収率、90%eeで得られた。さらに、求電子的フッ素化剤を用いたβ-ケトカルボン酸の脱炭酸的フッ素化反応も達成した。本手法は触媒による反応の加速効果は見いだせなかったものの、DMF中、触媒非存在化で目的とする第三級フルオロケトンが良好な収率で得られることが判明した。本手法では合成困難とされる第三級フッ素化合物を容易に合成できることから有用と考え詳細を検討した結果、芳香族ケトンだけでなく、カルボニル基のα’位に水素原子を有するアルキルケトンであっても最高93%収率という高い収率で目的とする第三級フルオロケトンが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きカルボキシル基の脱炭酸反応を利用した不斉官能基変換反応を用いて、従来合成が困難であったキラル化合物を触媒的に合成する。具体的には、β-ケトカルボン酸の脱炭酸的酸素酸化反応による不斉ヒドロキシル化反応およびα位にヘテロ原子を有するα-ヘテロ-β-ケトカルボン酸の不斉脱炭酸的塩素化反応によるα-ヘテロ-α-クロロケトン類の合成法を開発する。β-ケトカルボン酸の脱炭酸的酸素酸化反応によるヒドロキシル化反応ではキラルアミン触媒存在下、アクリジニウム塩の添加によりヒドロキシケトンの収率が向上することが既に判明している。しかしながらラセミ体の生成物が得られたため、まずアキラルなアミン触媒により反応が加速される条件をスクリーニングする。次いで、アキラルなアミン触媒の骨格およびアクリジニウム塩のような光増感部分を同一分子内に組み込んだキラル触媒を設計・合成し、高エナンチオ選択性の発現を目指す。さらに、カルボニル基のα位にヘテロ原子を有するα-ヘテロ-β-ケトカルボン酸の脱炭酸的塩素化反応によるα-ヘテロ-α-クロロケトン類の不斉合成法を開発する。α位に導入する置換基としては、スルフェニル基やアミド基、イミド基といった官能基を検討する。α-ヘテロ-β-ケトカルボン酸の脱炭酸的な不斉塩素化反応を種々のキラルアミン触媒存在化で行い、必要に応じてキラル触媒の置換基を最適化することで高エナンチオ選択性の発現を目指す。得られたα-ヘテロ-α-クロロケトンは、隣接するカルボニル基の効果により第三級炭素上でありながらも求核置換反応が進行すると予想されることから、SN2反応による誘導化も試みる。本手法は、α-ヒドロキシケトンやカルボニル基のα位に種々のヘテロ原子を有するα-ヘテロ-α-クロロケトン類を立体選択的に合成できることから、キラル化合物の斬新かつ有用な合成手法となると期待できる。
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